約 301,245 件
https://w.atwiki.jp/wiki9_vipac/pages/666.html
第三話 テラワロース 寺杷の娘カナミは、呆気にとられて工事風景を見ていた。 我が家の隣に、突然ACガレージが建設される事になったのだ。 これほどビックリしたのは、ソコにあると知らなかった肥溜めに落ちた時以来、、いや、それ以上かもしれなかった。 「おとうさん、、これは?」 父は何も言わず、牛の乳をしぼりつづけていた。 自分が尋ねても何も答えない時は、父はどうしても語らないので、 カナミは諦めて自分の部屋に戻った。 カナミは自分の部屋に戻り、 ベッドに飛び乗り父の買ってきたダサくデカいぬいぐるみに寄りかかりつつ、考えた。 「ACって、レイヴンの乗るロボットだよね、、。世界最強っていう、、。まさか!!」 カンが働いたカナミは、すぐに父のしようとしている事に気づき、部屋を飛び出て父のもとへ向かった。 「おとうさん!レイヴンなんてやめなよ!!」 ぎょっとした目で娘を見る寺杷。 だがしかし、すぐ別の方を向き、仕事の続きをする。 「牧場が経営できなくなるからって、レイヴンなんてやめて! 私もう、よけいな新しい服買ってなんて言わないから。 牧場の匂いがつくからって、一日に何回もシャワーあびるのもやめるから! お菓子買うのもやめて、いっぱいお金も節約するから、だから危ない事はやめて!」 寺杷は、大泣きの娘を見て、こう言った。 『お父さんは、今日から最強のレイヴンを、牧場の守備に雇うんだ。』 カナミはそれを聞いて、また考えた。そして、こう言った。 「え、じゃあ あのガレージは?」 『お父さんが雇ったレイヴンのACを置くためのガレージだよ。 近くにACが無いと守れないだろう?牧場を。』 カナミは、父の言っている事を理解した。レイヴンが住み込みで、牧場を守るのだと。 「でも、レイヴンを雇うのはお金が大変だって、言ってたじゃない、、。」 『それがね、そのレイヴンはACの維持費と朝昼晩の食事をくれるだけで、良いって言ってくれたんだ。』 「ふ~ん、、。でも、良かったね。良い人がいて。信用できるの?」 『もちろんさ。』 父が戦うわけじゃないんだと思ったのと、父のいつもの笑顔を見て、カナミは安心した。 『(すまん、カナミ、、。お父さんがそのレイヴンなんだよ、、。)』 娘は、いつもの調子に戻り、寺杷にたずねた。 「ねぇ、そのレイヴン、カッコイイ?」 『あ、あぁ。カッコイイ、、、と、思う。』 「思う?」 『カッコイイさ!』 「ふ~ん、、。楽しみぃー。」 娘がかなり期待してそうなので、寺杷はこう付け加えた。 『だが彼はシャイだから、我々の前に姿を見せないんだ!』 「そ、そうなんだ、、。」 残念そうにしている娘を見て、少し胸が痛んだが、自分だという事を明かす事はできない。 「ねぇ、ACは?もうガレージの中にあるの?」 娘が聞いた。ACを見てみたいのだろう。 寺杷は少し自慢げそうに言った。 『ふふ、、あるさ、、見て驚くなよ。』 寺杷は娘をつれ、工事中のACガレージの中に入った。 http //www.vipper.org/vip144523.jpg(当時のURL) 「なんかデヴだね。」 『デヴっていうな!』 「なんで おとうさんが怒るの?」 たしかにデヴだ。だがこんなACでも、牧場のために一日中レイヴンズ・アークのテスト場にこもり、 少ない予算からどうにかして牧場守備に最適だと思われるACを組んだつもりだった。 「この子、名前はなんていうの?」 『へ、名前?』 「うん、名前。レイヴン達は、皆ACに名前をつけるんだよ?」 そんな事は知らなかった。ずっとACと呼んでいた。 自分の知らない事を娘が知っているとは、娘も大きくなったものだと少し関心した。 『、、、テラワロース。』 寺杷は、とりあえず思いついた名前を娘に言った。 「ださいよ!というより、なんでウチの商品名なの?!」 『う、うーんと、レイヴンに宣伝も依頼したからだよ。』 「変なのー。」 さすがに一瞬あわてたが、なんとかごまかせた。 「ま、よろしくね、テラワロースくん!」 ペンペン、とカナミはACを叩くと、夕飯を作る、との事で、家に走って戻っていった。 寺杷とACだけがガレージに残り、寺杷は一言、ACに言った。 『よろしくな、期待しているぞ。テラワロースくん!』 ペンペン、とACを叩くと、寺杷は牧場の牛達の様子を見に行ったのだった、、、。 続く
https://w.atwiki.jp/moondream/pages/129.html
光「なかなか・・・」 ダーツ「出来るな」 光「道を開けて貰うまで手は抜かないぞ‼二刀流居合二の型」 串刺‼ 陵介「あーもう鬱陶しい‼」 乱打‼ ダーワン「私は署長のダーワン」 悠「さっきのがダーツってことは・・・ここは面白いな・・・玲菜‼先に行け‼」 玲菜「了解‼」 ダーワン「お前が俺の相手か・・・」 ダーツ「長刀一刀流」 斬覇‼ 光「二刀流居合一の型」 鐘楼‼‼ ダーツ「奥義」 回転斬‼ 光「一の型から四の型」 突上‼ ダーツ「おっつ」 光「四の型から三の型」 飛剣‼ ダーツ「うお‼」 光「敵に手を出させないほどの連技が俺の持ち味なんでね、三の型から五の型」 閉切‼ 光「五の型から一の型」 鐘楼‼ 光「一の型から御風流奥義」 嵐斬‼‼ 光「さすが看守長・・・だてじゃなかったが・・・俺が相手だったのが不運だ‼」 ダーワン「そこをどいて頂けないか?」 悠「それは無理な相談だな、スロットルB」 拡散弾 ダーワン「うっとうしい」 SHOT‼ 悠「ライフルか・・・危ないもの持っているな」 玲菜「そこ・・・邪魔なんだけど」 ダーサン「私は監獄長ダーサン、侵入者はこれで全員だな」 玲菜「そこ・・・どきなさいよ‼」 光「陵さん‼手貸します?」 陵介「ああ、この数じゃ日が暮れる、急ぐぞ」 光「二刀流居合三の型」 陵介「ハァア‼」 飛剣打‼ 悠「なるほど・・・署長のダーワン、看守長ダーツ、監獄長ダーサンは三つ子ってことか」 ダーワン「そういうことになる・・・そして全員で侵入者を捕えるのが我々のやり方なのだ」 悠「て、ことは・・・あいつが狙われるっていうことじゃないか・・・」 陵介「やっと片付いた・・・ったく無駄な時間だったぜ・・・早く悠達に合流しないとな」 光「ですね♪」 陵介「つまり看守長の話では・・・同レベルの三つ子がいると・・・一人は悠が止めているとして・・もう一人は・・・」 光「えぇ・・・玲菜が相手をすることになるんすよ」 陵介「そういうことか・・・じゃあ尚更急ごう」 悠「ったく面倒くさいことになってきたぜ・・・さっさと決めるぞ‼スロットル相互γ」 追跡弾‼ ダーワン「追跡?どこにそんな技術が‼?」 ズドーン‼ 悠「他の世界の技術だ‼おっと・・・先を急がないと・・・」 光「悠‼片付いたか?」 悠「ちょうど今な」 陵介「それよりあいつが」 悠「ええ・・・同じことを考えていました・・・急ぎましょう」 地下十階 悠「ここ・・・か?」 光「戦闘痕がある・・・ここで戦闘をしたんだろう」 悠「玲菜が勝って敵が消えたとか?」 陵介「その考えが吉、やられて連れ去られたという考えが凶だ」 悠「どの道あいつを拾ったらすぐに抜けられるようにあいつを先に監獄から出そう、看守室がどこかに・・・」 光「それならダーツが持っていた・・・あとはあいつがどこに幽閉されているかだ」 外野がぞろぞろと・・・私をお探しのようで・・・ 光「修みっけ♪」 修「・・・玲菜はその名を教えてしまったのですね」 悠「いいからそこから出てくれ」 修「もちろんです・・・鍵を」 修「しかしながら無限の退屈は死にたくなりますね、感謝しますよ」 悠「それならあいつに言うんだな・・・そのあいつが捕まったかもしれないんだ」 修「ええ・・・でしたら私の準備運動のついでに・・・」 玲菜「・・・・」 ダーサン「なぜここに来た?」 玲菜「・・・・・」 ダーサン「答えないか・・・無理もないな・・・少々痛めつけすぎた」 修「ここでしたか・・・腐った解隊の傘下が‼」 ダーサン「酷い言われようですね・・・あなたは最重要囚人の修か?」 修「ええ・・・すぐに私の妹に触れたことを後悔させてあげますよ」 ダーサン「訳が分からないな」 修「第四の能力は・・・無限の能力「闇穴」‼」 ブラック・ホール‼ 悠「うお・・・吸われる・・・」 陵介「すごい引力だな」 修「闇穴に吸い込まれた物はすべての力を封じられただただ痛めつけられるのだ・・・」 吸引・・・打・・・斬・・・解‼ 修「はい・・・御仕舞です‼」 光「さっすがだな♪」
https://w.atwiki.jp/eiden6/pages/78.html
隠者の庭園 封印区画・最下層 金の道、銀の道 金の道(ケビン) 銀の道(リース) 隠者の庭園 ・クローゼが参入。 ・南東の書棚で『リベール通信』を発見。 ・星の扉3(ヨシュア、クローゼ)が開放できます。 封印区画・最下層 ・奥の転位陣に乗る。 金の道、銀の道 ・石碑が解放されてます。装備品・クオーツの種類が増えてます。 ・ここから先はケビンとリースが二手に分かれて攻略します。 他の仲間達は全てどちらかのPTに割り振られます。 攻略を開始するとクリアするまで方石が使用できなくなります。 拠点に戻り準備をしておきましょう。(リースチームは「スカルペンダント」必須) ・準備ができたら石碑のメニューから「第三星層の攻略を始める」を選択。 ・ここではケビンチームから先に攻略していきます。 金の道(ケビン) ・進入直後にハンマーバッグ×4と戦闘。 ・道中に星の扉4。(ジン) ・奥に進むと石碑。クオーツの種類が増えてます。 ・石碑の先に進むとボス戦。?リース?、スパーキングミラー×2、ホーンテッドミラー×2。 封技、封魔の対策をしておきます。 ?リース?は倒す度にドッペルリース、グリモアになって復活。 お供のミラー達はそれぞれ物理反射、アーツ反射の能力を持っています。 ・勝利後、封印石を入手。 ・門をくぐるとチーム交代。 ・ケビンチームはもう戦闘がないので、装備やクオーツを外しておいても構いません。 宝箱:ティアラルの薬、スティングエッジ、(地・水・火・風・時・空・幻のセピス×100)×2、ゼラムカプセル、アマル・スピリタス、シルバーピアス、1000ミラ、ホワイトブレス+、キュリアの薬、スカルペンダント、魔弓アイオーン、ガイアグリーブ、地・水・火・風のセピス×100&時・空・幻のセピス×50 銀の道(リース) ・進入直後にヴァルジェム、ビロードデーモン×2と戦闘。 ヴァルジェムはHPが0になると自爆(即死効果付き)するので注意。 ・道中に月の扉3。(クローゼ、「編入試験合格通知」所持) ・奥に進むと石碑。 ・石碑の先に進むとボス戦。?ケビン?、デススラッガー×5。 気絶、即死の対策をしておきます。 デススラッガーの初動の連続攻撃が問題。当たるとまず瀕死になる。 先に倒したいところだが、HPが高い上に?ケビン?がグラールスフィア(2回完全防御)を使ってくるので難しい。 素直に回復アイテムを用意しておいたほうが無難か。 ?ケビン?は倒す度にドッペルケビン、グリモアになって復活。 ・勝利後、封印石を入手。 ・門をくぐるとイベント。石碑が解放される。 宝箱:ティアラルの薬、ガイアグリーブ、どろろフィッシュ、HP3、カステル・カクテラ、セラスの薬×2、タイガーハート、蜘蛛の太刀、スカルペンダント、地・水・火・風のセピス×50&時・空・幻のセピス×100、攻撃3、霊剣シルヴァーン、パールイヤリング+ 第四話 昏き聖痕へ
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/289.html
0
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/288.html
0
https://w.atwiki.jp/spirit--world/pages/20.html
glassball01.jpgglassball02.jpgglassball03.jpgglassball04.jpgglassball05.jpgglassball06.jpgglassball01.jpgglassball02.jpgglassball03.jpgglassball04.jpgglassball05.jpgglassball06.jpg ダァーンッ!! アイリス、ライル「!!」 レディスの撃った弾が的の真ん中に綺麗に当たった。 ざわざわ 「すげぇな、あいつ。」 「あの人かっこ良い~。」 「上手いね。」 ライル「おい、何だよあれ。」 アイリス「何が?」 アイリスは首を傾げた。 そう、今はカルト大会の予選を行っているのだ。 開始から30分経って、ようやく3人の番がやってきた。 ライル「レディスだよ、レディス!!」 ライルはレディスに指をさして言った。 アイリス「レディスは銃上手だよ。小さい頃にイギリスのお爺さんに教わったとか‥‥ ライル知らなかったの?」 ライル「知らねぇよ!!」 アイリスはライルの反応に驚いた。知っているものと思っていたのだ。 ライル(レディスって、銃上手かったんだな。) レディス「‥‥‥」 レディスは銃を構えた。集中し、狙いを定める。 ざわついていた周りは静かになり、空気が張り詰めた。 アイリス、ライル「ごく。」 ダァーンッ!! 手がぶれたのか、弾は少し左に命中した。 「50点!!」 レディス「‥‥‥」 アイリス「あっ、おしい。」 レディスは気を取り直して最後の一発に集中した。 そして、狙いを定める。 ダァーンッ!! 弾は起動に乗り、見事に的の真ん中を打ち抜いた。 ざわざわ 「すごーい。」 「あいつ2回も真ん中打ち抜いたぜ!」 「的小さいのにね!」 この予選の的は、真ん中から100点、50点、30点、10点となっている。 枠の外は0点だが。 歓声が上がる中、レディスはアイリスとライルの元に戻ってきた。 レディス(はぁー。) アイリス「レディスすごぉ~い!!」 アイリスは嬉しそうに拍手でレディスを出迎えた。 ライル「‥‥‥」 アイリス「今度は私が頑張るね!」 レディス「あぁ。」 ライル「!‥頑張れよ、アイリス。」 アイリス「うん。」 アイリスは的の前に移動した。 アイリス「‥‥‥」 (結構、的小さい‥‥けど‥) アイリスは弓を引き絞った。的に狙いを定めていく。 アイリス「やれる!!」 シュパ~ンッ!! アイリスの声と共に矢は勢い良く的に向かっていく。 真ん中からは少し逸れたが、見事50点を射抜いた。 ざわざわ 「うわぁ~、あの子も凄い!」 「本当だ。」 「あのチームどうなってるんだ?」 アイリス「う~ん、難しいな‥‥」 ライル(‥‥‥まずい。こいつ等上手すぎる!!) ライルの頭はパニクっていた。 ライル(どうするオレ、どうするオレ!!) レディス「‥‥‥」 シュパ~ン!! レディス「おい、ライル。」 ライル「なんだよ!!」 ライルはプレッシャーのせいでピリピリして、声を荒げていた。 レディス(どうしたんだ?) レディスは気を取り直して続ける。 レディス「お前、何を使うんだ?」 ライル「え‥‥‥何って?」 ライルは思い掛けない質問に戸惑う。 レディス「‥‥‥銃か?」 ライル「!‥‥そ、そう銃!!」 レディス「‥‥‥」 レディスは記録表に視線を移した。 記録表には、それぞれのチームの得点が記録されていて、見られる様になっている。 レディス(今現在で合計350‥‥予選を通過出来るのは、20チーム。) レディスは隣でアイリスを見守るライルを見た。 レディス(ライルを含めて‥‥あと150は欲しい。) ライル「‥‥‥」 キッ アイリスは的を見る。 弓を引き絞り、狙いを定め シュパ~ンッ!! アイリス「やった!!」 矢は軌道に乗り、真っ直ぐに的の真ん中を射抜いた! ライル、レディス「おぉ!!」 ざわざわ 「やるなぁ、あの子。」 「予選通過決まりかな。」 「もう1人も上手そう!」 観客は盛り上がっていた。凄い歓声が聞こえてくる。 アイリスは2人の所に戻ってきた。 レディス「お疲れ。」 アイリス「うん。」 ライル「‥‥‥」 レディス(この分だと、何とかなりそうだな。) レディスは少しホッとしたようだ。 アイリス「次はライルだね!」 ライル「あ、あぁ。」 ライルは的の前に移動する。 ライル「はぁ~。」 大きな溜息を吐く。 ライル「オレは、出来る!!」 カチャ ライルは、スッと銃を構えた。 そして狙いを定め‥‥撃つ!! ダァーンッ!! アイリス、レディス「!!」 ライル「‥‥‥ん?」 ライルは目を凝らした。 ライル「!?」 ライルの弾は見事に的から外れていた。そう、的の随分左に‥‥‥ アイリス、レディス「ライル!!」 アイリスとレディスが凄い剣幕で詰め寄ってきた。 思わずライルは後退る。 ライル「いや、これはその‥‥‥(おろおろ)」 アイリス「しっかりして!!」 ドンッ! ライル「ぅおっ!!」 アイリスはライルの背中を勢い良く押した。 ライルは、何とか体制を立て直す。すると、いつの間にか的の前に立っていた。 ライル(ふぅー。) ライルは深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。意識を的に集中する。 アイリス「!?」 そして、銃の引き金を引く!! ダァーンッ!! アイリス「あっ!」 レディス「‥‥‥」 弾は先程とは変わって右にずれたが、何とか的の30点に命中する。 ライル「むっ。もうちょっと左か‥‥」 アイリス「ライル、おし~い!」 「あの子、下手ね。」 「予選通過、これで分かんなくなったな。」 「そうだね!」 レディス(今ので合計480‥‥残り1発で30点は無いときついな。) 「ライル。」 ライル「(ビクッ)ん!何だ?」 ライルは後ろから妙な視線を感じて振り返った。 視線の正体はレディスだった。レディスはライルを睨んでいる。 ライル(まずい!レディス怒ってるな‥‥) コロコロ 何かがライルの方へと転がってきた。 ライル「あと1発かぁ。」 しかし、ライルは全く気付いていない。 ライル「よし、やるぞ!!」 ライルは心の準備を整えて的を見た。 キッ 集中し狙いを定める。そして1歩踏み出した。 つるっ さっき転がってきた缶をライルは思いっきり踏みバランスを崩す。 ライル「うわぁっ!!?」 ダァーンッ!! その勢いで、そのまま引き金を引いてしまった。 アイリス「あっ!!」 レディス「!!」 ライル「やばっ!!」 ダァン!! ライル「‥‥よっしゃ☆」 ライルの撃った弾は真っ直ぐに的の真ん中へ命中した。 静まり返っていた観客席から歓声が起こる。 ざわざわ 「良いぞ、良いぞ!」 「今年は良い奴揃ってるな。」 「こりゃ驚いた!」 「あれって、まぐれだよね?」 「さぁーね?案外狙ってたりして。」 ライルは嬉しそうにアイリスとレディスの元に戻ってきた。 アイリス「ライルすご~い☆」 ライル「おぅ!」 レディス「まぐれだろ。」 ライル「ん?何だと!」 レディス「本当のことだろ。」 さらっと言うレディスにライルはそれ以上言い返せなかった。 アイリス「ほら、次の人の邪魔になっちゃうよ。行こう!」 レディス「そうだな。」 ライル「わかった。」 ―――観客席――― セリス「ほう。なかなかやりますね、あの3人。」 セリスは腕を組んで感心した様に言った。 ライティル「はい。」 ライティルも嬉しそうに笑った。 セリス「でも、実戦ではそう上手くはいきませんよ。」 セリスの瞳に厳しさがやどる。 ライティル「そう、ですね。」 ライティルの表情も少し険しくなった。 そう、2人はこれからの旅のことを言っているのだ。 セリス「‥‥それにしても、ライル君は面白いですね。」 ライティル「‥クス‥‥見事に100点でしたよ。」 セリス「フッ、運も実力のうちですね。」 ライティル「そうですね///」 そして――― ラード「それじゃあ、結果を発表するぞ!!」 アイリス「いよいよだね。」 レディス「あぁ。」 ライル「緊張するな。」 ラードは紙を取り出すと順番に呼んでいった。 ラード「A-2、A-5、A-10、B-3、B-7‥‥」 ざわざわ 「やった、私達予選通過だよ!」 「まぁ、当然だな。」 「良かった~♪」 ラード「B-8、B-12、C-1、C-4‥‥」 アイリス(大丈夫かな?) ライル(まだかよ。) なかなか呼ばれないので、アイリスは段々と不安になってきた。 ライルも焦っている様だ。 ライル(オレ‥‥随分、足手纏いになっちゃったよな‥) ライルが俯き手を握り締める。 ラード「C-10‥‥」 アイリス「あっ!」 ライル「ってことは!!」 アイリスとライルの顔に光が差した。レディスもホッとした様だ。 レディス「予選通過だな。」 アイリス「やった!」 ライル「やったぁ~☆」 ライルは両手を挙げ飛び上がった。 アイリス「ライル、はしゃぎ過ぎ~。」 ラード「以上20チームが本選出場だ! 本選では、ある山にあるキノコを採って来てもらう。」 アイリス(キノコ?) ラードが話し始めると、今までざわついていた出場者は口を閉ざした。 ラード「制限時間は明日の昼まで。 夜はあっちで過ごすだろうから、準備しといた方が良いぜ。」 ライル(ってことは、野宿か!?) ライルの顔が青ざめる。 ラード「今から1時間後に、ここに集合だ! 必要な物は準備しといてくれよ。では、解散♪」 ラードの解散を合図に本選出場者は散っていった。 ざわざわ 「さぁ、必要な物買いに行こうぜ。」 「そうね。」 ライル「あぁー疲れた‥‥」 アイリス「そうだね、何か飲む?」 アイリス達はひとまず部屋の端に移動していた。 ライティル「皆さ~ん!!」 声のする方を見ると、観客席の方からライティルとセリスが歩いてきた。 アイリス「ライティル!セリスさんも。」 ライティル「これから荷物を準備するんですよね?」 ライル「そうだよ。」 ライティル「その前に私の話を聞いて下さい。」 ライティルは笑顔で言った。 話をする前に場所を移動することになり、ライティルに案内されて一同はある店に辿り着いた。 そこには、いろいろな宝石やリュック、鞄などが置かれている。 ライル「すっげ~!いろいろあるぞ!」 アイリス「これ、綺麗///」 ライルは周りを見回している。アイリスも近くにあった宝石に目を奪われていた。 レディス「それで、話は何だ?」 アイリス「!そうだった。ほら、ライル。」 ライル「おぅ。」 レディスが切り出して、アイリスもライルと一緒にライティルの所へ集まった。 ライティルは人差し指を立てて3人を見た。そして笑顔で言う。 ライティル「はい、収納についてです。」 アイリス「えっ?」 ライル、レディス「!!?」 3人は、いきなりの話に戸惑った。ライティルはそのまま説明を続けている。 ライティル「まず、収納とは今必要でない物をしまい、収めることです。 この本選では多くの荷物が必要になるでしょう。そこで、便利なのが‥‥」 レディス(一体何が言いたいんだ?) ライティル「これです!!」 ‥‥‥‥? ライティルは近くにあったリュックを手に取り持ち上げる。 それは本当にただのリュック。 ライル「普通のリュックじゃん?」 ライルは見たままの感想を言った。 ライティル「そう、見えますか?」 ライティルはゆっくりとリュックを床に置く。 アイリス「ぇっ?」 ライル「‥‥‥?」 レディス「!?」 ライティルの意味ありげな笑いに3人は息を呑む。 ライティル「これに魔法をかけると‥‥」 ライティルはリュックに手をかざした。 ボンッ アイリス、ライル、レディス「!!?」 今までリュックだっだものが、魔力を込めた途端に小さな宝石へと変わった! ライティルはそれを拾い3人に見せる。 ライル「何これ!!すげぇ~。どうなってるんだ?」 レディス「なるほど、そういうことか。」 レディスはライティルの言いたかったことを理解したようだ。 ライティル「これは、hold・gem(ホウルド・ヂェム)と言って、 魔力を込めると宝石になり、持ち運びが簡単なんです。」 アイリス「ってことは、大きい物や重たい物も小さく出来るんだ!」 アイリスは関心している。 ライティル「そうですね。」 ライル「でもさ、リュックに入らない物とかはどうするんだ?大きい物とか‥‥」 ライティル「その時は、大きい物を使うしかないですね。 ホウルド・ヂェムは、宝石の質で収納の量が決まるんです。」 ライティルは困った様に、頬に手を当てた。 ライル「へぇー。」 アイリス「そうなんだ!」 レディス「宝石にした後、取り出す時はどうするんだ?」 レディスの質問にライティルは心配ご無用と笑ってみせた。 ライティル「再び魔力を込めればリュックに戻りますよ! 中には宝石のまま取り出せるものもありますけど‥‥」 レディス「そうか。」 ライティル「ですから、これは私達にとってとても重要なんです。」 アイリス「?」 レディス「俺達はこれから旅をするからな。」 アイリス「!そっか。」 ライティルの言いたいことを正しく理解しレディスは呟いた。 ライティル(さすがレディスさん。) ライティルは静かに微笑む。 アイリス「あっ!旅で思い出したんだけど、食材とかはどうするの?冷たくないと‥‥」 アイリスは旅の上でとても大事なことを思い出した。 ライティル「それなら大丈夫です。食材用の物もありますから。 冷気が保てるようになっているんですよ。」 アイリス「そっか、それなら大丈夫だね。」 ライル「そうだな☆」 レディス「便利だな。」 3人はこの世界(精霊界)の技術に感心するのだった。 ライル「なぁなぁ、俺もそれやってみたい!」 ライルは宝石を指差して言った。 ライティル「良いですよ。」 ライティルはライルに宝石を手渡した。ライルは受け取ると握り締め力を込める。 ‥‥‥‥ ライル「あれ?」 アイリス「何も起こらないね。」 ライル「っていうか、どうやってやるんだ?」 ライティル「魔力を手に集めて宝石に込めるのですが‥‥」 ライル「よし。」 レディス「そもそも、俺達に魔力はあるのか?」 アイリス「あっ!‥‥」 30秒程沈黙が流れた。 ライティル「とりあえず、私がやりますね。」 アイリス「うん、そうしよ。ライティルお願いね。」 ライティル「はい。」 ライル「ちぇっ、やりたかったな。」 ライルはまだ不満そうにそっぽを向いた。 コホン ライル「!?」 咳払いが聞こえて後ろを振り返ると、そこにはセリスがいた。 どうやら、切り出すタイミングを計っていたらしい。 ライル「セリス、いつからそこに?」 セリス「酷いですね‥‥先程からいましたよ。」 セリスは悲しそうに顔に手を当てた。 レディス「それで、どうしたんだ?」 レディスの問いにセリスは表情を引き締めた。 セリス「先程、ライティルさんから聞きました。 あなた方は違う世界(人間界)から来たそうですね。」 ライル「そうだけど、それがどうかしたのか?」 ライルが不思議そうに尋ねるとセリスは笑顔で答えた。 セリス「次の本選はある山に行かなくてはいけません。」 アイリス、ライル、レディス「?」 セリス「あなた方はこの世界をよく知らないということで、 特別ルールを作りました。不利ですからね。」 アイリス、ライル「特別ルール!?」 レディス「!?」 アイリスとライルは思わず叫んでいた。レディスも驚きを隠せない。 ライティル「はい。次の本選、私も皆さんとご一緒します。」 セリスの代わりにライティルは言った。 アイリス「えっ?良いの!?」 ライル「それが特別ルールか!」 セリス「そういうことです。」 レディス「まぁ、助かるが。他の参加者にはどう説明するんだ? 『他の世界から来た』なんて信じられない話だぞ?」 アイリス「そうだよね‥‥」 レディスの最もな意見にアイリスも困った顔をする。 セリス「まぁ、大丈夫でしょう。ラードには僕から言っておきますし、 1人くらい増えても気が付きませんよ!」 アイリス、ライル、レディス(良いのか!!?) セリスの気楽さに3人は心の中でつっこんでいた。 ライティル「よろしくお願いしますね。」 アイリス「うん、よろしく。」 ライル「よろしくな☆」 レディス「あぁ。」 セリス「それでは、必要な物を買ってきて下さい。」 ライル「なぁなぁ。オレ、武器変えたいんだけど‥‥」 アイリス「えっ、変えるの?」 レディス「‥‥それが妥当だな。ライルは銃が下手すぎる。」 アイリス(確かに。) ライル「何だと!!」 アイリスはレディスの意見に心の中で同意した。 アイリス「まぁまぁライル、落ち着いて。」 ライル「‥‥‥」 アイリスは何とかライルをなだめることに成功した。 セリス「仕方ないですね。それでは倉庫に行きましょう。」 ライル「倉庫?さっきの部屋じゃないのか?」 ライルは予選が行われた部屋を思い浮かべる。 セリス「予選が終わったので片付けてしまったんですよ。」 アイリス「そっか。」 セリス「では行きますよ。付いて来て下さい。」 ライル「あぁ。」 セリスを先頭に一同は倉庫に向かって歩き出した。 ―――倉庫――― セリス「着きましたよ。」 ライル「ここか、でかいなぁ~。」 セリス「では中へ。」 ライル「おぅ!」 ライルはセリスに促されて中へ入っていく。アイリス達は外で待つことにした。 アイリス「ねぇねぇ。ライル、どんなのにするのかな?(わくわく)」 ライティル「そうですねー。」 レディス「さぁな。」 アイリス「楽しみだね。」 倉庫の中に入るとそこは白い壁が続いていた。 ライルは辺りをキョロキョロと見回す。 セリス「この奥ですよ。」 少し前を歩いていたセリスの方を見ると、もう一つのドアを発見した。 ライル(あれか!部屋別れてるんだな。) セリスがドアの取っ手に手を掛け、ゆっくりと回す。 ガチャ 音と共にドアが開き、ライルは中へと入った。 セリス「さぁ、選んで下さい。」 ライル「ありがとう。」 ライルは辺りを眺めた。様々な武器がある。 ライルは、いろいろな種類の剣を手に取ってみた。 ライル(これは、ちょっと重いな‥‥これは長すぎるし‥) 「ん?」 ライルは中央にあった1つの剣を手に取る。 そして、それを軽く振ってみた。 チャキッ ライル「はっ!‥‥やっ!」 (これは!長さや重さも良いな。) 「よし、これに決めた☆」 ライルは剣を鞘に収める。 セリス「では、行きましょうか。」 ライル「あぁ☆」 セリスは元来た道を戻っていく、ライルもその後を追った。 アイリス「でね~♪」 ライティル「そうなんですか!」 ガチャ ドアが開き2人が中から出てきた。 アイリス「あっ、ライルお帰り。剣にしたんだ!」 ライル「あぁ。オレ、剣道やってたからな☆」 ライルは嬉しそうに笑う。 レディス「そう言えば、そうだったな。」 レディスも思い出した様に呟いた。 そこに、ライティルは不思議そうに聞いてきた。 ライティル「あの‥‥剣道って何ですか?」 アイリス「えっ?」 アイリスはライティルの質問にどう返して言いか戸惑った。 ライル「う~ん、何て言うのかな?‥‥竹刀持って相手と打ち合うんだけど‥‥」 レディス「スポーツの一種だな。」 ライル「そう、それそれ!」 レディスの分かりやすい例えにライルも頷く。 セリス「なるほど、だから型が身に付いていたんですね。」 1人納得するセリスにアイリスは首を傾げる。 レディス「!」 アイリス「どういうことですか?」 ライル「剣の構えってことだろ。」 アイリス「そっか。」 ライティル「人間界にはそんなスポーツがあるんですね!」 セリス「興味深いですね。」 レディス「そろそろ行くぞ。買い物するんだろ?」 ライティル「そうですね。時間も少なくなってきましたし。」 アイリス「うん、そうだね。」 ライル「よし、行くか!」 4人は必要な物を買う為に、店へと向かうのだった。 glassball01.jpgglassball02.jpgglassball03.jpgglassball04.jpgglassball05.jpgglassball06.jpgglassball01.jpgglassball02.jpgglassball03.jpgglassball04.jpgglassball05.jpgglassball06.jpg
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5938.html
北高卒業式は、午前十時からでした。 鶴屋家専属メイキャッパーのかたが手伝ってくれたおかげで、お化粧や身だしなみもばっちりです。登校も、今日は車で送ってもらえたので、らくちんでした。 もっとも、最後にあの坂道をのぼらなかったのは、ちょっともったいなかったかもしれません。いえ、疲れるのが好きというわけでもないのですけど、感慨という意味で。 いまは、クラスの子たちとともに、体育館の入り口付近で待機しているところです。ほかのみんなはわりとリラックスしている様子でしたが、わたしだけはちがいました。 なにしろ、未来では学校の形態そのものが異なっているため、卒業式というセレモニー自体がはじめての経験なのです。もちろん、クラスメイトたちといっしょにリハーサルはしていますが、それでも緊張するのはいなめませんでした。 「卒業生一同、入場」 合図とともに、吹奏楽部が演奏を開始しました。 音楽ともに、卒業生が体育館に流れこんでいきました。整列する在校生たちのあいだを通りぬけ、自分たちの席へとむかいました。 列は背の高さ順なので、わたしはクラスの最後尾になります。当然ですが、鶴屋さんよりもうしろでした。昨年までは、体育などでは最前列付近があたりまえだったのですが、背が高くなったので、そういうところもかわっていました。 歩きながら、わたしは在校生たちを横目に見やりました。 SOS団のみんなの姿を探したかったのですが、むりでした。さすがに、この状況でキョロキョロとあたりを見回すわけにもいきません。それでは挙動不審すぎます。 やがて、自分の椅子のところまできました。全員が入場するのをまって、音楽がやみました。それから、着席の声がかかりました。 祝電披露から、来賓、校長先生の挨拶など、式は淡々とすすんでいきました。 全体の流れは把握していたつもりでしたが、思っていたよりもずっと退屈でした。節目の重要なセレモニーだと聞いていたのに、こんなものなのでしょうか。これでは、長いだけで、始業式や終業式と大差ありません。 そういえば、三年前の入学式はどうだったかしらなどと記憶をたどっているうちに、卒業証書授与式がはじまりました。といっても、証書を受けとるのはクラスの代表者のみで、あとの卒業生はその場で起立し、一礼するだけです。 わたしたちのクラスの代表は、鶴屋さんでした。 みんなのぶんの卒業証書を受けとったあと、彼女はすぐに振りかえって、全校生徒にそれを見せつけるようにしました。堂々と胸を張り、誇らしげな様子でした。 真剣な表情と端正な面差しは、凛々しいとすら思えました。なんとなく、ひとまえに立つべき人間の顔だと思いました。 各クラスの代表が卒業証書を受けとりおえると、つぎは在校生の送辞と、卒業生の答辞でした。在校生代表は今年の、卒業生代表は昨年の生徒会長です。 今年の生徒会長は、よくしりません。昨年度の彼は、なにかとSOS団にかかわってきたものでしたが、任期をおえたら見かけることもなくなりました。もともとクラスもちがっていたので、接点があまりなかったのです。 この送辞と答辞がおわれば、あとは国歌・校歌斉唱だけです。わたしの三年におよぶ高校生活も、おわりをつげることになります。 「以上をもって、在校生一同からの送辞とさせていただきます。平成……」 結びの言葉をのべ、在校生代表がさがりました。それをうけ、元生徒会長の彼がまえにでてきました。卒業生答辞です。 マイクの高さを調整し、原稿をかまえ、そしていまにも声をだそうというふうに、彼が息をすいこんだ瞬間でした。 突然、体育館の電気が消えました。あたりが真っ暗になりました。 「えっ」 「なに、なんなの」 「おい、どうしたんだ」 騒ぎというほどではありませんが、そこかしこからささやき声が聞こえていました。でも、わたしはおどろいてはいませんでした。 いつもなら、こういうとき、おろおろとおびえてパニックを起こしてしまうところですが、今日のわたしは思考規制がとけています。一味ちがう大人の朝比奈みくるなのです。 この昼日中に、電気が消えたぐらいで真っ暗になるというのは、ふつうのことではありません。たぶん、カーテンを全部しめてしまったのでしょうが、秒単位の短時間で、そんなことをやってのけることができる人間、いえ、存在はそういないでしょう。 さらに、状況が卒業式、つまり目立つ式典のさなかとなれば、答えは出たも同然でした。SOS団が、なにかサプライズを用意していたのです。 ふいに、スポットライトが演壇の中央を照らしました。その光のなかで、まるで自分が世界の中心であることを誇示するかのように、ひとりの少女が凝然としてたたずんでいました。 涼宮さんです。ギターをかかえ、不敵な表情をうかべています。セーラー服に、トレードマークの黄色いカチューシャがよく映えていました。 つづいて、さらなるライトで、みっつの人影が同時に浮かびあがりました。 むかって左手にギターの長門さん、右手にたぶんベースギターをかまえたキョンくん。そして涼宮さんのうしろ、いつのまにはこびこんだのか、ドラムセットのむこうには古泉くんの笑顔も見えました。 体育館は、歓声ともどよめきともつかない声につつまれていました。元生徒会長の彼は、すでに自分の席にもどったのか、どこにも見あたりません。先生がたも、止める様子はありませんでした。事前に、根回しでもしておいたのでしょうか。 おそらくは、場の全員の視線が集中しているだろうなか、涼宮さんが口をひらきました。 彼女の演説、いえ、宣言は、じつに単純明快なものでした。 「答辞を受けるまえに、われわれSOS団からも送辞にかえて、歌を贈ります。二曲、ぜひ聞いてください」 かつかつと、古泉くんがドラムのスティックを打ち鳴らしました。それを合図に、わたしを抜いたSOS団の演奏がはじまりました。 イントロはなく、歌と同時に伴奏もはじまるタイプの曲のようでした。これは、オリジナル曲でしょうか。 アップテンポで、早口に歌詞をたたきつけるような感じの曲でした。言葉がはやすぎて、こまかいところが聞きとりにくかったのですが、サビの部分だけは耳にのこりました。 『あなたが望むとおりに生きて。あなたのなりたいものになって。かならず、それは未来につながっていくから』 そんな内容の歌詞でした。 間奏にはいると、長門さんがまえにでてきました。ギターソロです。いつものように無表情のまま、彼女は風変わりな演奏をはじめました。 ギターのことはよくしりませんが、長門さんがやっていることが特殊なテクニックであることは理解できました。 ふつう、ギターというのは、左手の指で細い部分を押さえ、右手にもったピック……でしたっけ、あれで弦をはじくものだと思います。でも、長門さんは細い部分に両手をよせていました。 それでどうなっているのかわかりませんが、テロテロと、なめらかでこまかい音が鳴っていました。 彼女の演奏が一段落ついたところで、つぎに涼宮さんもギターソロをはじめました。キョンくんに背中をあずけて、ぎゅわんぎゅわんとワイルドに弦をかき鳴らしています。 太陽を思わせる笑みを浮かべ、涼宮さんはなにか口をうごかしているようでした。もしかしたら、キョンくんに話かけていたのかもしれません。 古泉くんが、笑顔のままでドラムを叩いています。キョンくんは、こちらに背中をむけていることもあり、顔がほとんど見えませんでした。ただ、ときどき涼宮さんと視線をあわせているらしい気配がありました。 ふたたび歌パートにもどったあと、サビのくりかえしをへて、ラストはシンプルなアウトロでしめくくられました。曲がおわるのと同時に、体育館はわれんばかりの拍手につつまれました。 生徒は卒業生・在校生とわず、すでに総立ち状態でした。わたしも、立ち上がって手を叩いていました。 降りしきる雨のような拍手を浴びながら、SOS団が二曲めの演奏をはじめました。 二曲めは、いくぶんミディアムテンポよりの歌でした。メロディラインのうつくしい曲でした。 伴奏もシンプルで、歌いあげるようなタイプの曲でした。 陰になり、日向になって、いつも自分たちを助けてくれた先輩に、感謝の気持ちをのべるという内容の歌詞でした。生意気な後輩だったことを詫びる言葉や、ずっとおなじ目線で接してくれてありがとうというような言葉もありました。 歌がおわると、またしても長門さんがまえにでてきました。二曲めのアウトロは、ギターソロのようです。 このアウトロは、一曲めのそれよりもかなり長いものでした。そして、とても情感ゆたかなギターソロでした。 無表情な長門さんが弾いているとは思えないほど、むせび泣くと形容するのがふさわしい演奏でした。 詞の内容とあわせ、後輩が、先輩との別れを惜しんでいる情景が目にうかぶような、そんなギターでした。 演奏がおわったとき、体育館はしんと静まりかえっていました。時間が止まったかと錯覚しそうなほどでした。 まえに出ていた長門さんが定位置にもどり、涼宮さんが頭をさげたところで、だれかが拍手をはじめました。 ひとり、またひとりと拍手は増えはじめ、いつしか体育館は手をたたく音でみたされていました。 一曲めがおわったときよりも大きく、そして長い拍手がつづきました。口笛の音も聞こえました。 たっぷり数分ちかく、そんな状態だったでしょうか。いつしか、拍手は一定のリズムを刻みはじめていました。 バンドに、アンコールを催促するリズムでした。 「みくるっ」 ふいに、よこから声をかけられました。 そちらに顔をむけると、いつのまにか鶴屋さんがきていました。それに、なぜかキョンくんのお友だち、谷口くんと国木田くんもいっしょでした。 「にっひっひー。ほい、これ」 そういって、差しだされたのは、タンバリンでした。わけもわからず受けとると、鶴屋さんは上機嫌そうな笑みをうかべました。見ると、彼女はマラカスをふたつかかえていました。 「朝比奈さん」 ずいと、谷口くんがまえにでてきました。 「ふぇ? 」 真剣な表情で、谷口くんがわたしを見つめています。なにか決意を胸にひめた男の子の顔でした。 おもむろに、谷口くんが口を開きました。 「俺、ずっとまえから、あなたのことが好きでひヴぁ? 」 「谷口ぃ、冗談もときと場合を考えなよ。だからカノジョに捨てられるんだって。……ええと、朝比奈さん。キョンからの伝言をあずかってきました。アンコールがはじまるまえに、鶴屋さんといっしょにきてほしいと」 国木田くんにネクタイをつかまれ、谷口くんが悶えています。 「は、はなせ、国木田。首、しまる。息、いき」 「はいはい。ほら、席にもどるよ」 そのまま、国木田くんは谷口くんを引きずるようにして、去っていってしまいました つかのま、その様子をぼんやり見送っていると、鶴屋さんに手をつかまれました。 「さ、あたしらはステージにいくよっ」 「ひゃあ、ひ、ひっぱらないでくださいよう」 ステージにあがると、涼宮さんがつかつかと近寄ってきました。壇上で動きがあったためか、さきほどからさかんに聞こえていた拍手の音が、ちいさくなっていました。 「あなたたち卒業生を送るためのライブだったけど、アンコールはべつよ。SOS団名誉顧問ならびに副々団長として、最後に参加してもらうわ! 」 そういって、涼宮さんはぱちりと片目をとじました。 「まかせるっさぁ! 」 いうがはやいか、鶴屋さんはステージの反対側、キョンくんのむこうまで、走り去りました。スキップとともに宙返りでもしそうないきおいでした。 「や、やりますぅ」 できるかぎり気合をこめて、わたしも答えました。 「よろしい! 」 すっと手をかざされ、無意識に、わたしは自分の手をそこに合わせていました。 ハイ・タッチでした。 くるりとこちらに背をむけ、涼宮さんがステージ中央にもどりました。 「みんな、卒業生だけど、みくるちゃんと鶴屋さんがSOS団として演奏に参加してくれることになったわ! 」 客席から、おたけびにも似た声があがりました。わたしや鶴屋さんの名前をよぶ声も聞こえました。 「アンコールをやるまえに、SOS団全員のメンバー紹介をするわね! まずは終身名誉顧問、鶴屋さん! 」 「にょろろーん! 」 紹介をうけて、鶴屋さんがしゃかしゃかしゃっしゃ、しゃかしゃっしゃとマラカスをふっています。バレリーナがやるように、その場でくるくる回転していました。 「つぎ、頼れる副団長、古泉くん! 」 どっどんどかどん、しゃんしゃんどこどこと、古泉くんがドラムをたたきました。 「副々団長兼書記、みんなのアイドル、みくるちゃん! 」 「ひゃいい」 ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃか、ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃかと、タンバリンを打ち鳴らしてみました。い、いまさらですけど、ぶっつけ本番なんですよね。だいじょうぶでしょうか。 「あたしたちSOS団のほこる万能選手、団員その二、有希! 」 きゅいきゅい、きゅいいーんと、長門さんがワンフレーズをかなでました。 「永遠の雑用係こと団員その一、キョン! 」 ボボンボボンボン、ボンボボンボボボと、キョンくんがベースをひびかせました。 「そしてあたし、悠久不滅のSOS団団長、涼宮ハルヒ! 」 テテレテレテレテ、テテレテレテレテと涼宮さんがギターを弾きはじめました。 あれ? このフレーズ……。 考えるひまもなく、キョンくんが、古泉くんが、そして長門さんが演奏に加わっていきました。 ……ちょ、ちょっとまってくださいよ? もしかして、もう曲がはじまってるんですかぁ? 余裕な顔で、鶴屋さんがマラカスをふっていました。わたしも、あわててタンバリンをたたきました。 さっきのフレーズというかイントロは、しっています。たしか、洋楽ロックのスタンダードナンバーだったはずです。アンコールなので、だれでもしっている曲を選んだのかもしれません。 タイトルは、そう、ジョニー・B・グッドです。 「ごっごー! ごーじょにごうっ! ごうっ! ごーじょにごごうごうっ! 」 器用にギターをかき鳴らしながら、涼宮さんがノリノリでシャウトしていました。観客のみんなも、いっしょになって歌っていました。 会場全体と、一体になった感覚がありました。リズムは心臓の鼓動、声援は地鳴りでした。 途中から、演奏はほとんど涼宮さんと長門さんによるギター合戦という様相を呈してきました。 たとえば、涼宮さんが華麗な早弾きを披露すれば、長門さんが叙情的なメロディをかなでるというぐあいです。 また、長門さんが歯で弦をはじけば――キスしているみたいで、かなりドキドキしました――涼宮さんがギターを持ちあげて、頭のうしろで複雑なフレーズを弾いてのけるといった感じでした。 ほんとうに、胸のすくような演奏でした。そして、ステージのしたから見ていたときとはちがい、彼女たちといっしょに壇上で参加させてもらっているというのも、おどろくべきことだと思いました。 あらためて、わたしはSOS団の一員だったのです。このすてきな、すばらしいひとたちの仲間だったのです。 キョンくんと古泉くんが、バンドの土台をささえています。涼宮さんと長門さんがまえに出て、会場を盛りあげています。わたしや、もちろん鶴屋さんも、そこに華を添えられていたはずだと、自信をもっていえます。 会場のみんなが手を打ち、足を踏み鳴らし、声をだしていました。曲がおわるまでたった数分間で、わたしは汗まみれになってしまいました。熱気と興奮で、夢を見ているような気分でした。 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1062.html
シエスタは、一週間前から幸せに包まれていた。 一週間前。 水場で洗濯をしている時に、挙動不審な少年を見つけたのが、事の始まりであった。 平賀才人と名乗った、その少年は最初、 ここ何処だよ! どうして月が二つあるんだよ!? つうか、メイド!? えっ? ヘヴン? とか、訳の分からない事を叫んでいたが、どうにか落ち着かせて話を聞いてみると、日本と言う場所から、ここに迷い込んできたらしい事が分かった。 恐らく、才人が他のメイドや魔法学校の職員に見つかっていたなら、彼にはまた違う未来が待っていたのだろうが、運が良かったのか、悪かったのか、才人が最初に遭遇したシエスタは、日本、と言う言葉に聞き覚えがあった。 シエスタの曽祖父が、口癖のように言っていた言葉が日本と言うらしい。 曽祖父の言葉を聞いていた祖父が、自分の息子、つまり、シエスタの父親に話し、父親がさらにそれをシエスタに話していたのだ。 少年に興味を持ったシエスタは、知り合いの中で一番偉い料理長のマルトーに、事の次第を話し、ここで雇ってくれるように頼み、才人がここで働けるように取り計らった。 その時に、気を利かした同室のメイドが別の部屋に移り、何故か才人と同室になってしまったのはご愛嬌である。 基本的に、二人とも、雑用の仕事で忙しい為に、夜に日本と言う場所についてと、才人曰く、別世界である、この世界について会話するのが、この一週間で新しく出来たシエスタの日課である。 そして……才人が二段ベッドの、上の方のベッドで眠っている中、もう一つ追加された日課をシエスタは行っている。 「うふ……うふふ……才人さんの手、とっても綺麗ですねぇ」 眠っていて気が付かない才人の手に頬擦りをして愛でるのが、シエスタの追加された日課だ。 この世に生まれてから見た中で、才人の手はシエスタの中で一番、綺麗で、肌触りが良かった。 昔からこうなのだ。 シエスタは、綺麗な手を見ると、つい触ったり、頬擦りしたくなってしまう。 無論、そんなことを我慢しないでやっていれば、今頃、両親はシエスタの事を水のメイジの元に連れていっただろう。 幼い頃のシエスタも、その事をおぼろげに理解しており、これまでずっと、その手に関する感情をシエスタは隠し続けていた。 だが、才人の手は、そんな我慢を丸ごと無意味であったと言うように、シエスタの手に対する感情のタガを完璧に壊してしまったのだ。 曽祖父の言っていた、日本と言う場所からやってきた少年。 それだけでも、シエスタにとっては特別な存在であるのに、手も完璧とくれば、シエスタでなくとも特別な感情を抱くのは吝かではない。 その浮ついた心が悪かったのだろうか。 ちょっとした、本当に些細なミスを彼女はしてしまった。 アルヴィーズの食堂で、食後のデザートを配っている最中に貴族が床に落としたビンに気が付かなかったのだ。 その貴族は、そのビンが元で、二人の女性からビンタを喰らい、両の頬を真っ赤に染め上げ、シエスタに食って掛かってきた。何故、ビンを拾わなかったのかと。 言い掛かりそのものの怒りを受け、シエスタはすっかり恐怖で萎縮してしまう。 確かに、ビンを気付かず拾わなかったのはシエスタの非だ。 しかし、拾った所でこの結末は結局変わらなかったじゃないかと、傍で見ていた生徒の内の何人かの賢い者達は思っていたが、所詮平民の娘が一人、怒鳴られているだけ。誰一人それを助けようとせず、逆にせせら笑っていた。 誰もがシエスタの味方をしない中で、ただ一人、同じくデザートを配っていた少年がシエスタを責め立てていた貴族に反論し始めした。 平賀才人。 あの素晴らしい手を持った少年である。 「イヤャァァァァァァァァァッ!!」 幸せが根本から崩れる音がする。その音を聞きたくなくて、シエスタは悲鳴を上げた。 彼女の視線の先には、吹き飛ばされる少年の身体。 その少年を吹き飛ばした青銅のゴーレムは、追撃はせずに主であるメイジの指示を待っている。 「強情だな、平民。這い蹲って、一言謝れば許してやると言うのに」 青銅のゴーレムを操るメイジ―――ギーシュ・ド・グラモンが、才人に呆れたように降伏を提案するが、 才人は立ち上がり――― 「絶対、嫌だ」 ファイティングポーズを取り、決闘の続行を態度で示す才人に、ギーシュはやれやれと首を振り、杖を振るう。 その動きと同時に青銅のゴーレム―――ワルキューレは動き出し、才人の顔や腹を手加減無しに殴り続ける。 ―――まるで、サンドバックだな。 シェイクされ続け、まともに機能しない脳でそう考え才人は苦笑した。 無論、殴られている顔の筋肉は、才人の意思通りに動かず苦笑を形作る事さえ出来ないが、もはやそんなことは関係無かった。 「俺、死ぬのかなぁ……」 暢気に呟いたその言葉は、口から出る事さえしない。 痛くて苦しい 辛くて泣きたい 自分がどうしてこんな風に殴られているのか、忘れそうになる。 なんというか、才人には予感があった。 こうなるのでは無いか。 見るも無残なまでに殴られ、顔は腫れあがり、喉は口から流れた血がこびりついて、動きさえしない。 そんな光景が一瞬、頭を過ぎったが、結局、自分は“此処”にこうしている。 思えば……あの予感がした瞬間に、自分は、こうなる『覚悟』をしていたのでは無いだろ―――――― 「グガッ!!」 骨にも、筋肉にも見捨てられた鳩尾に減り込むワルキューレの拳。 ―――効いた。 今のは正直、もう痛みになれたと思ってた身体に、思い上がるなと警告する痛み。 (激痛に、さらに二乗したような感覚だな) その痛みの所為か、鈍っていた思考がクリアになっていく。 おかげで、今、自分の頭に向かってくるワルキューレの蹴りがはっきりと見えた。 ―――まぁ、見えたからって避けられないんだけどな ゴンッ、と鈍い音が広場に響くのと同時に才人の身体は、宙を舞い……桃色の髪をした少女の足元へと辿り着いた。 他のメイジ達の笑い声が、ルイズには遥か遠くのように聴こえていた。 自分の足元に居る少年。 彼は先程まで、貴族に凛とした表情で挑み続け、今、ボロクズのように倒れ伏している。 ―――何なのよ……これは。 その倒れている少年を見ていると、ルイズは自分でも良く分からない感情が、自分の中に生まれている事を感じ取っていた。 それは憐憫か? それとももっと別の感情か? 判断は出来なかったが、これだけは理解できる。 認めたくない事だが、どうやらこいつは、平民の癖にプライドが、敵に媚びないだけの『覚悟』があるらしい。 前々からルイズは思っていた。 ルイズにとっての理想の貴族とは、姉であるカトレアである。 しかし、その姿勢と言うか物事に対する取り組みは長女のエレオノールを手本としている。 エレオノールは何時も凛とし、他者を寄せ付けない雰囲気を出していたが、それは反面、誰にも媚びない、真に誇り高い者が纏うオーラであった。 このようになりたい。 誰にも頭を下げず、誰からも認められる、長女のような貴族に…… そう、胸に秘めてルイズは生きてきた。 だが、現実は甘くは無い。 どうしてもプライドと折り合いを付けなければならない事態はあったし、誰かに頭を下げる事なんて、かなりあった。 故に、自分は今だ理想を体現出来ていない。 だと言うのに……平民でありながら、その理想を体現している者が、今、こうして目の前に現れているのだ。 怒りはあった。 平民なんかが、と言う思いも確かにあった。 けれど、それ以上に、ルイズはこいつに負けて欲しくは無いとも思っていた。 平民が貴族に勝てるはずなど無いのに、何故だか、そう思っていたのだ。 「ソレガ、今ノ君ノ望ミカ、ルイズ……」 主が望めば……その者は、スタンドは動く。 それが例え、実現不可能に近い事であろうと…… 「正直……コノ少年ヲ勝タセルノハ難シイ。ダガ、不可能デハ無イ」 淡々と語る使い魔の言葉に、ルイズは驚愕の表情をホワイトスネイクへと向ける。 「うそ……こいつ、こんなボロボロなのよ? 一体、どうやって勝たせるのよ?」 「ソウダナ……コレガ、勝利ノ鍵ダ」 そう言ってクルクルと左手で回転させているDISCと何処から盗んできたのか、 果物を切る為のナイフを右手に持つホワイトスネイクに、ルイズは、何か言い知れぬ違和感を感じていた。 何か足りない……? 今朝と、今のホワイトスネイクを比べると、何かが足りないようにルイズは思えたが、ホワイトスネイクが視線で訴えてきた。 一瞬で良い、隙を作ってくれと。 隙なんて、どうやって作れば良いのよ、とルイズは心の中で毒づいたが、一つ、名案が浮かぶ。 自分の欲求と彼の勝利。 二つを併せた完璧な案に、ルイズは心の中で笑った。 そうして―――――― 「その決闘、待った!!」 大声で決闘の停止を呼びかけた。 「その決闘、待った!!」 そんな声が、辛うじて残っていた右耳の鼓膜を刺激する。 刺激の元凶を探し、僅かに動く首を回すと、意外にもその刺激の持ち主は近くに居た。 桃色の髪をした少女……その勝気な瞳が、自分と戦っていた相手に向けられている事を 才人が気付いた時、才人は動かない唇を動かしていた。 「な……に……を……ごほっ」 していると続けたかったが、途中で傷付けられた胃から胃液が逆流し、口内の血と交わり朱染めの体液を吐瀉する。 その様子に、ルイズは少しだけ眉を顰めて 「あんた黙ってなさい!」 大声で、そう叫んだ。 なんというか、今の少女の声には有無を言わさない迫力があり、才人は吐いたままの姿勢で立ち尽くす。 座って休まないのは、今、座ったら、もう立ち上がれないからだ。 「なんだね、ルイズ。今は神聖な決闘の最中なんだ。 ご婦人は、大人しく下がっていてくれるかい?」 「残念だけど、そうも行かなくてね。 ギーシュ、私と賭けをしない?」 「賭け?」 生真面目なルイズの口から、そんな言葉が出た意外さにギーシュは不思議そうな顔をしたが、 ふむ、とだけ呟き、首を動かして先を促してきた。 どうやら、このまま抵抗も出来ない平民をボコボコにしても詰まらないと感じたのだろう。 ルイズは、相手が興味を覚えた事に対して、心の中でガッツポーズを取りながら、言葉を続ける。 「賭けの内容は……この平民が貴方に勝つか、どうかよ」 ルイズが宣言した内容に、周辺のギャラリーがざわつく。 所々で、正気か? ついに頭まで『ゼロ』に、とか色々と言葉が飛び交っているが、それを無視してルイズは言葉を続ける。 「そして、賭けるモノは、相手に一つだけ何でも要求をすることが出来る権利よ!!」 堂々と告げるルイズに、ギーシュは何を言ってるんだ、こいつは、と言う視線を送るが ルイズはそんな事関係ないとばかりに口を動かし続け、全員の注目を自分へと引きつける。 (さぁ……これで良いんでしょう、ホワイトスネイク。 ここまでお膳立てをしてやったんだから、必ずその平民を勝たせなさいよ!!) (無論ダ) 誰にも諭されないようにホワイトスネイクは音も無く、才人の後ろへと近づく。 ただの学生である才人には気配なんて感じることも出来ず、ホワイトスネイクの接近を許してしまう。 そうして ―――ズブリ、と頭部にホワイトスネイクの右手が突き刺さった。 (始メマシテガ、コノ場合ノ正シイ挨拶ダナ) (なっ、誰だてめぇ! ……あれ? 俺、声……出てる?) (ココハ、オマエノ精神ノ中……私ハ、直接オマエノ頭ニ語リカケテイル) (どーりで頭に響く訳だ。つーか、何の用だよ。今、忙しいだけど、決闘とか決闘とか決闘とかで) (問題ハソレダ……オマエハコノママデハ、負ケテシマウ所カ、死ンデシマウ。 オマエモ、幾ラ何デモ死ニタクハ無イダロウ) (そりゃあ……死にたくないに決まってるよ……だけど、あいつは、あいつだけはぶん殴らねぇと気が済まないんだよ) 才人は、知らず知らずのうちに歯噛みしていた。無論、顎など疾の昔に砕けているので、出来るはずなど無いのだが、この感覚だけの世界では、不思議と顎に力を入れることが出来ていた。 (……オマエハ、私ノ知ッテイル人物ニ良ク似テイル。 ソイツモ、オマエノヨウニ何度死ヌヨウナ目ニ遭ッタトシテモ諦メナカッタ。 私ハ思ウ。オマエニハ、奴ノヨウナ『黄金ノ精神』ガ宿ッテイル) (なんだそれ? 焼肉のタレの親戚か?) (イヅレ、オマエニモ分カル時ガヤッテクル。 イイヤ、モウ分カッテイルハズダ。 デナケレバ、コノヨウナ勝チ目ノ無イ戦イヲスルハズガ無イノダカラナ……) 段々と頭の中に響いていた声が遠くなっていく。 それと同時に、頭部に何かが入ってくる感触がする。 何かが自分の身体に馴染む感覚。 それが何なのか才人には分からなかったが、その感覚が、才人の意識を外界へと向けていき…… (最後ノサービスダ……オマエノ『痛覚』ヲDISCニシテ抜イテオイタ。 オ膳立テハ、ココマデダ。存分ニ、ソノ力ヲ、私ニ見セテクレ) 「さぁ、どうするの!? 賭けにノるのノらないの!?」 「良いだろう、その賭けにノらせて貰おう……これで良いかい、ルイズ? さぁ、早くそこを退いてくれ。その、平民にトドメを刺せないからな」 余裕の表情で、そう告げるギーシュ。 ルイズは、その言葉に満足げに頷きながらライン越しにホワイトスネイクへと話しかける (そっちはどう? 準備万端?) (何モ問題ハ無イ。ムシロ、君ハ奴ヲ殺サレル方ヲ心配シタ方ガ良イ) (ふぅん、予想以上になんとか出来たって訳……一体どんな記憶DISCを使ったのよ?) (誤解ガアルヨウダガ、今回、私ハ記憶DISCヲ使ッテイナイ) (はぁ? じゃぁ一体どうしたって――――――) 「行け、ワルキューレ! そいつの頭をかち割ってやるんだ!!」 本当なら、ギーシュは平民が謝ったら、すぐにでも決闘を止めるつもりでいた。 だが、中々謝らない強情な平民と、賭けを提唱してきたルイズによって、その考えは捨てるしかなくなっていた。 仕方なく、ギーシュはこの平民を殺す事にした。 別に平民を殺した所で、貴族には罪にならない。 彼ら貴族にとって、平民と言う肩書きがあるだけで人間では無いのだ。 だから、罪悪感など微塵も感じない。 まるで、ランプに集る小煩い羽虫を潰すような気軽さで、 ギーシュは―――真っ二つにされる、ワルキューレを見た――― 「「へっ?」」 間抜けな声をあげたのは、ギーシュとルイズの両名。 二人とも、目の前の現実が突飛過ぎて脳の処理限界を超えてしまったのだ。 誰が信じられる。 先程まで良いように殴られ続けていた平民が、たかだか果物ナイフでワルキューレの青銅の胴を切り裂いたなどと。 「――――――ッ!」 声など出ない。出してる暇も無いし、出す気も無い。 ただ、痛みも身体の限界も、力学も、空気抵抗も忘れて、才人は走り出した。 自らが標的と定めた敵へと向かって 「わ、わるキュー!!」 慌てて残りのワルキューレを出そうとするが、時すでに遅し、 物理法則を無視したかのような才人の速さは、一息の踏み込みでギーシュの懐へと入り込んでいた。 そして、喉に当てられる刃。 まるで、獲物に喰らいつく猛獣の歯のようにギラつくその刃にギーシュはすっかりビビってしまった。 「コ……降参する! 降参するから、命だけは助けてくれ!!」 だが、首からナイフの刃が外される事は無い。 「頼む……なぁ、頼むよ。謝るから、許してくれ……お願いだ」 ギーシュの懇願が効いたのか、それとも肉体的にすでに限界だったのか、 果物ナイフをギーシュの首元から外し、てくてくと才人は歩き出す。 そして 「あっ……」 殴られ続けた才人を見て、呆然としていたシエスタに笑いかけた。 その微笑みは、顔の筋肉が殴られた影響で腫れあがり、 まともに働かなかった為に随分と歪なものであったが、確かに笑っていた。 「――――――」 その笑顔のまま、口を僅かに動かし、才人の身体は、今度こそ地面に倒れ伏した。 「才人……さん……」 倒れた才人を見て、ペタンと座り込んでしまうシエスタ。 今までの出来事に対し、脳の処理能力が追いつかないのだ。 回りの貴族達も同様であった。 ただ、驚きの表情でこの決闘の一部始終を見つめているだけ。 そんな中で、ルイズとホワイトスネイクだけが正気に戻っていた。 と言うか、ホワイトスネイクは最初からの、この結末になることを知っていたし、ルイズはホワイトスネイクに声を掛けられて、やっと正気を取り戻したのだ。 平民が……貴族に本当に勝った…… ホワイトスネイクがどうにかして勝たせると言っていたが、まさか、こんなに圧倒的とは思っていなかったのだ。 ともあれ、なんとか再起動を果たしたルイズは、悠然とした動作を心がけてギーシュへと近づく。 その顔は、先程の才人が表現したかった満面の笑みで彩られている。 「さぁ、ギーシュ。賭けの清算をしましょう?」 なるべく穏やかに、なるべく優雅に、ルイズはギーシュへと話掛けるが、ギーシュは一度、身体をビクンと一度振るわせた後、ガタガタと肩を揺らし始めた。 最初、ルイズは首にナイフを突きつけられた恐怖に震えていると思っていた。 しかし、事実はまったくの逆。 ギーシュは、限りなく憤っていたのだ。 「ルイズ……この賭けは無効だ……」 腹の底から響かせるように、ギーシュは厳かにそう告げる。 この返答にルイズは、眉を顰めた。 何を言ってるんだ、こいつは。 平民に負けたら、強制的にギーシュの負けである。 なのに、無効とは…… 「何、ふざけたこと言ってるのよ!! 約束を守りなさいよ! あんたそれでも貴族なの!!」 「あぁ、貴族さ! 誇り高きグラモンの末弟にして、土のメイジだ! だから、だからこそ、本気を出せば、あんな平民如きに負ける訳が無い!!」 そう言って、ギーシュは杖を振るい、薔薇の花弁からワルキューレを六体作り上げた。 「あの時、僕のワルキューレは一体だった。 しかし、本来なら僕は七体のワルキューレを扱う事が出来るメイジだ! 故に、あの勝負は全力で挑んでいなかったとして無効だ!!」 速効で勝負を終わらしてしまった事が裏目として出てしまった。 ギーシュに、貴族に対して、平民に負けたと言うのは耐え難い恥である。 もしも、ギーシュが七体全てを出し切って負けていたのなら、こんな事にはならなかっただろう。 しかし、今の彼には逃げ道が、全力を出していなかったと言う“言い訳”が存在してしまっていた。 「憐れね……現実が信じられないからって、そんな逃げ道に走るなんて…… それでも、誇り高き貴族なの?」 本気でルイズはギーシュに対して憐れみを感じていた。 そう……次のギーシュの言葉を聞くまでは…… 「お前に貴族云々を言われる筋合いは無い!! 魔法も使えない癖に、ただ威張り散らすだけの『ゼロ』が!! ハッ、そうか……君、あの平民とグルだったんだろう? それで、魔法を使えない者同士、知恵を振り絞って僕を倒そうとしたんだろ? そうなんだろ? ハハッ、何が憐れだ。君の方がよっぽど憐れだよ。 さっきから貴族、貴族と……魔法も使えぬ奴が貴族を語るな!!」 普段のギーシュならば、こんな言葉を吐かなかっただろう。 だが、平民に自分のゴーレムを壊された事、そして、その現場を他の学生達に…… 特にモンモラシーに見られた事が、彼から余裕と―――危機感を奪っていた。 故に彼は気が付かなかった。 ルイズの握られた拳から、血が流れていた事を…… 誰かが、その、あまりにも強く、手を握り締めた為に爪が食い込み出血しているその拳を見れば、この後の事態を避けられたかもしれなかった…… しかし、運命は無情である。結局、誰一人、その事実に気が付かず、ルイズは一歩、確りと足を踏み出してしまった。 「ねぇ……ギーシュ……決闘しましょう…… 貴方は魔法を使っても良い。勿論、使い魔も良いわよ 私も使い魔を使わせて貰うから、そのぐらい許可するわ」 何の感情も込められていない言葉。 あまりにも怒りに、頂点を一巡して、無感情にまで辿り着いた怒りに、ルイズは静かに向き合っていた。 その様子に気が付いた者が、ギャラリーにちらほらと見受けられてきたが、ギーシュはそんなことに気が付かず 「良いだろう……だが、君は魔法を使えないから実質、君の使い魔のみが、 メイジである僕と戦うんだ。僕のヴェルダンディは出すまでも無いよ」 「そんなこと言わないで……だって、貴方、今度負けたら使い魔が居なかったら負けた…… とか言い出すに決まってるわ。なら、最初から使い魔が居た方が手間が省けるもの」 「何の手間だい? 君が僕に負けて地面に這い蹲って、泣いて部屋に帰る時の手間かい?」 その時は、勿論ヴェルダンディで部屋に送ってやるさ、と呟くギーシュにルイズはもう一歩近づく。 そして、本当に透明な声で…… 「いいえ……貴方の墓穴を掘る手間よ」 ゆっくりと告げた。 瞬間、ルイズの隣に立っていたホワイトスネイクの身体が弾けた。 否、“弾けたような速さ”でギーシュへと肉薄した。 スタンドとは本体の精神エネルギー。 例えば、一人の人間が100メートルを七秒で走れたとしよう。 それが、どれだけ感情を燃やした所で、その人間の限界。 そして、それが世界の法則。 肉体と言う世界に縛られた檻では、感情を幾ら燃やした所で、どうしても限界を超える事が出来ない。 だが、スタンドは精神エネルギーの結晶体。 肉体を持たず、世界との繋がりが緩いスタンドは、世界と言う檻に囚われず、時折、そのスタンドに予め決められていた性能の限界を超えてしまう。 無論、限界とは、それ以上、先へ進めないから限界である。 その為に、スタンドが成長して限界を超える際は、基本的に新たな能力の使い方に目覚める。 すでにして性能が限界に達していたスタープラチナが、限りなく『0』に近い静止した時間を動けるようになったように…… エコーズが、その姿を変えて、能力を変化させたように…… オアシスが、それ以上強くなれない肉体の為に、周囲を脆くする能力を身に付けたように…… だが、ホワイトスネイクは、新たな能力には目覚めなかった。 この世界では無い、世界。 スタンド使いが居た世界で、新たな能力に目覚めず、スタンドの基本性能を一時的に飛躍させ、誇張でも何でもなく『限界』を超えたスタンドが一体だけ居る。 シルバーチャリオッツ。 仲間を殺された怒りが、超えられるはずの無い限界を超えたように、 ルイズのホワイトスネイクもまた超えられぬはずのない限界を超えていた。 有り得ぬはずのスピード。 有り得ぬはずの精密動作 有り得ぬはずのパワー ルイズとギーシュの距離は10メートルは離れていた。 しかし、ホワイトスネイクはその距離を一瞬にして『ゼロ』にして、同時に六体のワルキューレを粉々に粉砕していた。 「ほら……これで貴方を守る存在はいなくなった…… ねぇ、本当に使い魔を呼ばなくて良いの? このままじゃあ貴方……」 ルイズの淡々とした言葉は、ギーシュの耳には届いていない。 何が起こったのか、さっきの平民所の話では無い。 ガチガチと歯がなる。 認められない。認められるはずが無いと。 「ヴェルダンデ!!」 自分の使い魔を呼ぶ。 ヴェルダンデは、主の望むままにルイズの足元に大穴を空け……動かなくなった。 「なっ……何を……」 「ん~、綺麗なDISCね。流石はジァイアントモール……主よりもよっぽど価値があるわ」 手に何か円形のものを持って、ルイズが呟く。 もう、訳が分からなかった。 この状況もそうだが、自分の近くに居たはずのルイズの使い魔が何時の間にか、ルイズの傍に控えている。 その様は、下される命令を待つ兵士のようであり……処刑の号令を待つ、死刑執行人であった。 「さてと……それじゃあ……奪わせて貰うわ……貴方の才能を……ね」 円形のモノを口に咥えたルイズが、つい、と指揮棒を振るように右手を振った瞬間に、ホワイトスネイクがギーシュの眼前へと現れ―――――― 「えっ……?」 訳が分からなかった。 全力で振りぬかれたはずの使い魔の右手は、自分の頭をぶち壊す訳でもなく、ただ通り過ぎてしまった。 これは……もしかしたらチャンスじゃないか…… ギーシュは、最後の最後で油断を見せたルイズを嘲笑った。 ルイズも、ルイズの使い魔も、すでにギーシュに背を向けていた。 その隙だらけの背中に、剣を創り飛ばそうと、ギーシュは呪文を唱えた。 が……それが形になることは無かった。 「な……なんで?」 「お探しのものは、これかしら?」 ルイズがギーシュへと振り向く。 その頭には、二枚になった円形のモノの一枚が、頭に突き刺さっていた。 「それは……」 「……貴方、自分から出たモノなのに分からないの? これは、貴方の魔法の才能……土のドットクラスなんてカスだけど、 まぁ、ありがたく使わせ貰うわ」 そう言って、ルイズはこれまで一度も触れなかった杖に触れ、大きく杖を振り上げた。 それに伴い、粉々になったはずのワルキューレ達が、次々に形を取り戻していく。 「中々、便利じゃない……」 感心したように呟くルイズに、ギーシュは、もう自分は、この化け物に勝つことが出来ない事を悟った。 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 「あぁ、そうそう―――あんたには出て行ってもらうわ」 気付かれた……この世で最も恐るべき存在に気付かれた。 ギーシュは気絶したかったが、襲い掛かる恐怖の波でそれすらも出来なかった。 ただ、震えてルイズの言葉を待つしかできない。 「出て…………行くって…………何処……に?」 「決まってるじゃない」 ルイズは、無感動に無感情に無慈悲に無意義に無意気に 「――――――あの世よ」 お前はこの世に価値が無い。 まるで、無為な者を見るような目で自分を見つめるルイズの視線に、ギーシュが目を逸らそうとした瞬間、目の前が塞がれた。 何かが、頭の中に入ってくる…… そんな感覚がしたかと思うと、ギーシュは自分の首を自分で絞めていた。 「ぐぇぇぇぇっ!!」 苦しそうに呻くが、自分の手だと言うのに、思うとおりに動かない。 「ギーシュッ!!」 ギャラリーの中で、心配で部屋に戻った振りをしてギーシュを見に来ていたモンモラシーがギーシュに近寄り、首に回っている手を外そうとするが……外れない。 「ギーシュ!! ……ギーシュ!! ルイズ、お願い!! 彼を助けてあげて!!!」 何をしたか分からないが、ルイズがギーシュに何かをしてこうなった事は分かっていたので、ルイズに助けを求めるが、 彼女はワルキューレに倒れ伏した平民を担がせて運ぼうとしていた。 呆然としていたメイドもついでに抱えている。 「お願い!! お願いよ、ルイズ!!!」 モンモラシーの嘆願に、ルイズは振り返りさえせず、ヴェストリの広場を立ち去ってしまった。 そうこうしている内に、ギーシュの顔色が青から土色へと変色していく。 もう余裕が無いのは明白だった。 「ギーシュ!! お願い、手を離して、ギーシュ!!!」 モンモラシーが泣き腫らした目と、枯れた声で叫んだ瞬間、彼女の耳に魔法の詠唱が届いた。 「エア・ハンマー」 風の槌がギーシュの頭を酷く叩く。 それによって、ギーシュは気絶し、手に込められていた力もあっさりと抜けた。 「タバサ!!」 普段寡黙でこんなイベントには来ないであろう彼女が来た事に対する疑問はあったが、モンモラシーは素直にタバサがここに居る事を喜んだ。 「ありがとう! 本当に……本当にありがとう……」 泣きじゃくるモンモラシーを余所に、タバサは天国に片足を突っ込んだギーシュへと近づく。 ギーシュの足元、そこに光る何かを見つけたからだ。 円形の形をした何か。 鍋敷きのようであるが、これが、ギーシュに自分の首を絞めさせた原因だろう。 タバサが、それを懐にしまうと、タバサの後を着いてきたキュルケが、ふらふらと広場に到着する。 ギャラリーが騒然となっている中、この騒ぎを起こしたのがルイズだと知ると、キュルケは自責の念で潰れそうになった。 ―――自分が……自分が引き金を引いた所為でこんな事に…… もう遅すぎる後悔が、彼女を絶え間なく責めていた。 第二話 戻る 第3.5話
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/979.html
「―――そう、穂群原学園だ。被害は甚大……そうだ。不発弾の爆発でそうなったということにしよう。では、そのプランに沿って頼む」 事後処理を行う教会のスタッフに電話で連絡をした後、神父である男は受話器を置いた。 そして、教会の入口に目を向ける。そこにはスーツ姿の女性が立っていた。 「良く来てくれた。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 「お気になさらずに、言峰綺礼」 聖堂教会の人間と、魔術協会の人間、決して歩み寄らない両組織の人間が邂逅した。 「―――前回の聖杯戦争は陰惨を極めた。殺人鬼がマスターとなり、本来の監督役であった私の父は死亡、そしてあの大火災、 秘密裏に行われるはずの戦争が世間にこうまで被害を与え、神秘の隠匿という大前提を崩壊させる寸前まで行われたことは、実に憂うべきことだ」 言峰は首を振り、悲観した風に締めくくった。 「君にはこの聖杯戦争で前回のように狼藉を働くマスターとサーヴァントを狩る事に協力してもらいたい」 「ええ、私もそのつもりで来ました」 言峰の言葉に、バゼットは快く応じた。 ―――バゼットは気づかない。言峰綺礼が彼女の令呪が刻まれている左手を見ていることを。 「私はアサシンを召喚しました。彼ならマスターの情報を集める事にも、危険な存在の排除にもうってつけでしょう」 「アサシンか、それは好都合なサーヴァントを召喚したものだ」 満足げに頷く言峰は―――決定的な一言を口にした。 「ああ、ところで『それ』のことだが」 「?」 バゼットの視線が、言峰が指差した先、祭壇の上の十字架に向けられる。 何の変哲も無いホーリーシンボルに、バゼットは首をかしげた。 その隙を、言峰綺礼が見逃すはずも無い。 一瞬で黒鍵の刃を顕現させると、女の左腕を穿ちにかかる。殺気に気がついた女が振り向いたときにはもう遅い。 バゼットの表情、驚愕と哀哭がない交ぜになったそれを見て、言峰綺礼は嗤った。 「ああ、そうだ。その表情が見たかった」 言峰の奇襲は完璧に近い。もし、この場にバゼットの味方である第三者がいたとしても、普通の人間では対応すらできないだろう。 ―――あくまで、普通の人間ならば。 ドアを金槌で叩くような音がした瞬間、鉛弾は直線の弾道を描き飛んでいく。 教会の扉を撃ち抜いた一発の火線は、即座に刃物を持つ腕に命中した。 防弾機能と防護の術式が編まれた僧衣は大した威力でも無い銃弾を通さなかったが、衝撃まで殺しきることはできず、黒鍵は甲高い音を立てて床に転がり、言峰はバゼットに体勢を立て直させる暇を与えた。 バゼットは、奇襲を仕掛けてきた本人を見やりながら、距離を取る。 「念のため、鍵穴から中を覗いておいて正解だったな」 銃撃した当人は素早く扉を開けて入り、ポツリと呟いて銃口を神父に向けた。 「―――ク。暗殺者の英霊相手に騙し討ちは分が悪かったか」 獣のような笑みを浮かべる神父にアサシンは無言で銃を撃つ。銃創が神父の額に穿たれ、仰臥して斃れた。 「……」 無言で立つバゼットの額には冷や汗が浮かんでいた。 それはアサシンを奪われそうになる程、自分が弱いことに気がついたからだ。 言峰がかつてと比べて更に研鑽したのか、そうでないのかは、バゼットに知るよしもない。しかし、これだけは言える。 言峰にはバゼットと戦う意思があり、自分には言峰と戦う意思が無かった。 だから、簡単に騙され、殺されかけた。アサシンがいなければ、自分は早々に脱落していた。 その事実に、屈辱と恐怖が涌き上がってくる。 「バゼット、退くぞ」 アサシンの言葉にようやくバゼットは我に返った。 正当防衛だったとはいえ、自分達は監督役を殺害したのだ。早々に立ち退かなければ厄介なことになる。 「まだ調べたいことはあるが、諦めろ。下手をすれば敵が増えかねない」 「……ええ、確かに」 アサシンの先導でバゼットも教会を出る。一度だけ振り向いて言峰の遺体を見やった。そしてすぐに踵を返すと、教会を出ていった。 誰もいなくなった教会で、しかし動くモノはあった。 言峰綺礼の遺体、その額の穴から湧き出るように吹き出す物体―――黒い汚泥は、ゆっくりと言峰綺礼の傷口を埋めていった。やがて完全に傷口が塞がった時、今まで死体だった『何か』が立ち上がった。 「突然の危機を想定し、常に警戒を怠らず、引き際も素晴らしい。良いサーヴァントを引き当てたな。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 笑う。それは嘲笑か、それとも祝福の笑みか。立ち上がった死人は、澱んだ眼で背後の空間を見た。 「それだけに手に入れられなかったことは惜しい。が、『お前』から見ればどうだ。手こずる相手か」 返ってきた言葉を聞き、言峰は笑いを深めた。 それはおぞましい、全てを冒涜するような笑みだった。 衛宮邸の茶の間。普段は明るい声が響く茶の間で、しかし現在は緊張が支配していた。 黒衣のキャスターは掌を由紀香の頭にかざし、精神を集中させて何かを詠唱している。 それが終わり、琥珀色の双眸を開いたキャスターに、マスターである士郎が期待を込めて口を開いた。 「キャスター、何とかできそうか?」 「……残念だけど、無理ね。これをやったのは現代の魔術師じゃ無い。これは宝具によるものよ」 その言葉に沈黙が陰鬱な物に変わる。キャスターの眼前には犬の耳が生えた由紀香の頭があった。 学校での戦闘後、一行はこれからをどうするべきかで話をした。 ともかくも遠坂凛が説明をする事になり、その場所として衛宮士郎が自分の家である衛宮邸を提供した顛末だ。 遠坂凛の口から出てくる説明に、それを聞く者達は驚く以前に呆然としていた。 魔術。 サーヴァント。 聖杯戦争。 いずれもライトノベルやアニメのような話であり、そしてそれが現実である事は先程の光景で証明されている。おまけに、自分達はそれに無理矢理な形で関わらせられようとしていることを聞かされた。 「大体は分かったが……とにかくもこれをどうにかして貰えないだろうか」 鐘は自分の背中から生えている翼を手に取って引っ張った。 由紀香の耳は帽子を被れば何とかなるだろうが、鐘の翼や楓の手足は誤魔化しようが無い。これでは日常生活を送る事すら出来ないだろう。 遠坂凛と衛宮士郎は、キャスターに解呪を依頼した。 ―――だが、芳しくは無かった。 「分かっていることは、これをしているのは魔術では無く宝具。それも相当に霊格の高い宝具によるもの。本来の担い手ならともかく、私に手が出せるものじゃないわ」 「それなら、遠坂がやったみたいにこの令呪でキャスターをパワーアップしたらどうだ?それなら……」 士郎の縋るような言葉に、キャスターは首を横に振った。 「出力が足りないとかそういう話じゃないの……わかりやすく説明するわ。ねえ、貴女」 話を黙って聞いていた少女にキャスターは話しかける。 「は、はい。何ですか?」 由紀香の視線を真っ直ぐ覗き込むキャスターは、口を開いた。 「何か、おかしな気分はしないかしら。例えば、できるはずの無い事をできたとか、それとも、あるはずの無い記憶を持っているとか」 「あの、そう言えば、何か変なことが。私の名前は三枝由紀香って言うんですけど、他にも名前がある気がするんです。それから、そのもう一つの名前の持ち主のやったことも覚えているような気が……」 「そういえば、アタシも操られてた時に何か夢みたいなもの見てた気がするな」 思い出したように言う楓に、鐘も反応した。 「……お前もか?蒔の字。私も何か戦うような夢を見ていた気もするが」 「ああ、それそれ。伽和羅(かわら)身につけて、剣持って戦うんだよ。自分の事じゃない筈なのに、妙にリアルな夢でさ」 その言葉に、キャスターはふうと溜息をついた。 「……本人の精神と、外部からの精神、つまりはその宝具によるものが、融着している。下手に引き離したら本来の精神にも悪影響が出るかも知れない」 キャスターの分析に、士郎は歯を食いしばって呻いた。 「……そんなことを、三人はされたのかよ」 「今は冷静に解決策を考える時よ。士郎」 怒りを募らせる士郎を宥めるキャスターだが、その表情は固い。楓が慌ててキャスターに詰め寄る。 「ちょ、ちょいまち。じゃ、このままこの姿で生きていけってのか?」 キャスターは無言でおもむろに楓の腹部に手をかざし、口を開いた。 「少なくとも姿はどうにかなると思うけど。貴女達が持っている以上、ある程度は自分で運用できる筈だから」 「ほ、本当?う~ん。戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ……」 由紀香が手を合わせ、拝むように念じた。すると、犬耳が髪の中に吸い込まれるように引っ込み、見えなくなる。 「おお、戻ったぞ。由紀香!」 「えっ……本当!戻ってる!」 鐘の言葉に手鏡を覗き込んだ由紀香は、自分の頭上から犬耳が綺麗に消えていることに歓声を上げた。 「強く念じれば、元に戻るのか」 「よし!メ鐘、アタシらもやってみよーぜ!」 そのまま、二人して手を合わせて念じる。 「「戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ」」 二人で目を固くつぶって、一心不乱に唱えている姿は危ない新興宗教のようでなかなか不気味だったが、効果はあったらしい。 楓の手足は人間のそれに戻り、鐘の背にあった翼もうっすらと消えていった。 「「戻ったー!!」」 「これで少なくとも、外見はどうにかなるという事が分かったわね」 冷静に呟くキャスターの隣に座る士郎は、暫くつぐんでいた口を開いた。 「キャスター、聖杯なら三人の身体を完全に戻すことができるのか?」 士郎の言葉に、今しがた喜び合っていた三人が視線を向けた。 「聖杯が言葉通りの物なら、ね」 事も無げに言うキャスターの言葉で、衛宮士郎は表情を決意に固めた。 「……なら俺が聖杯を手に入れて、三人の身体を元に戻す」 その言葉に、三人は驚愕し、由紀香が真っ先に口を開く。 「待って、衛宮君!聖杯戦争って危険なんでしょ?」 「承知の上だ」 「承知の上だって、お前……分かってんのかよ。バカスパナ!」 「いくらなんでも、無茶だ。考え直せ」 楓に続き、鐘も士郎を止めるが、士郎は首を横に振る。 「もう、俺は巻き込まれているんだ。キャスターのマスターとして。今更引き返す道なんて無い」 士郎は淡々と話を続ける。 「俺は聖杯なんていらない。キャスターが使う分と、三人が元に戻るために使う分さえあればそれでいい。」 「だが!校舎をあんな風にしてしまう連中が相手なんだぞ?」 「なら、尚更だ。サーヴァントに敵うのがサーヴァントだけなら、俺が聖杯を手に入れるしか無い。それしか氷室達の身体を元に戻す方法が無いのなら、それを選ぶのが当然だ」 士郎の言葉に、その場の全員が言葉を失った。 この少年は、知り合いとは言え他人のために戦うと、剣の一振りで鉄筋造りの校舎を焼くような怪物達の闘いに身を投じると言ったのだ。 三人のいずれもがなにか言おうとしてやめた。この少年が戦って、聖杯を手に入れてくれれば自分達は元の日常に帰れるという考えを誰もが抱き、 すぐにそれが少年を死地に追いやることである事に気がつき、そんな考えを抱いた自分が醜くて仕方が無かった。 悲壮な雰囲気が漂った空間は、一人の少女が立ち上がったことで、沈黙が終わる。 「じゃあ、私は帰るけど、衛宮君。話したいことがあるからちょっと来てくれない?」 優等生の皮を脱いだらしい遠坂凛は、こちらの方が素であろう態度で士郎を呼んだ。 「正直なところ、私も聖杯で叶えたい願いは無いのよ」 凛の言葉に、士郎は驚愕した。 「じゃあ、何だってこんな闘いに参加したんだよ。俺みたいに偶然召喚したわけじゃ無いんだろ?」 「まあ、それは置いといて。聖杯を三枝さん達のために使うって本当?」 真剣な顔で聞く凛に、士郎は少したじろぐも、はっきりと答えた。 「ああ、そうしようと思う」 「キャスターはそれでいいの?」 凛の言葉にもキャスターはいつもの感情の起伏に乏しい表情を変えなかった。 「士郎に従うわ」 「そう。それなら約束して。どちらが最後まで残って、聖杯を手にしても、三枝さん達のために使うと」 「本当か!?」 万能の願望機を、自分と同じく他者のために使う人間がいたことに、今度は士郎が驚いた。 「別に深い意味は無いわ。ただ冬木の管理者として、こんな風に一般人を好き勝手されて気に入らないだけ」 「えっ、遠坂ってそんなに偉い人だったのか?」 「衛宮君、どれだけこっち側のものを知らないのよ……」 士郎の無知に、凛は額に指を立てて首を振った。 「とにかく、三枝さん達のことはできるだけ他のマスターにもばれないようにしましょう。宝具を取り出せない以上、先手を打って彼女達を攻撃しようなんて連中がいないとも限らないわ」 「とりあえず、当面は犯人のサーヴァントとマスターの捜索だな。分かった。遠坂ありがとう」 「お礼はいいわ。いずれ戦う相手だもの……ああ、そうそう」 「なんだ?」 「……やっぱりやめといた方がいいわね。それじゃあ、衛宮君、キャスター。また戦う日までね」 そう言うと、遠坂凛は怪訝な顔をした士郎とキャスターを残して去って行った。 家路についた凛は、既に自宅である遠坂邸の正門前に立っていた。 「そりゃそうだ。万が一のことを考えれば、綺礼には連絡しない方がいいわね」 遠坂凛は独り言を呟きながら、先程自分の頭に浮かんだ考えを反芻する。 ―――教会による三人の保護。 一瞬浮かんだ考えは、すぐに否定された。教会は正義の味方では無い。巻き込まれた人間の記憶を消して日常に返すぐらいのことはするだろうが、それは神秘を秘匿するという仕事をしているにすぎない。 おまけに現在の監督役は魔術協会とも繋がっているあの兄弟子だ。 もし協会にでも知られたら、三人の身柄がどうなるかわかったものではない。 宝具を身に宿した一般人だ。最悪、保護という名の実験材料化なんてこともありうる。 衛宮士郎は、家に人を招くことを躊躇しないような殆ど一般人、注意を払っておけば問題は無いだろう。 キャスターにしても、その衛宮士郎に忠実らしい。多分、大丈夫だ。 「問題は、明確なルール違反を犯したサーヴァントとマスターか」 一般人を操って他の陣営を襲わせる。神秘の漏洩にも繋がりかねないそれは、冬木の管理者としても遠坂凛としても許せそうにない。 「これでますます負けられなくなったわね。バーサーカー」 「◆◆―――◆」 凛は霊体化している従者に話しかけた。聞こえてきたのは相変わらずの唸り声だが、同意しているらしい。 「じゃあ、帰りますか。明日からが大変よ」 決意を新たに凛は玄関から自室へと向かった。 それは一見したところでは何の変哲も無いワンボックスカーだった。 誰が知るだろうか。それを根城にしている二人の内の一人が、人間では無いことを。 『……宝石は、まだあるわね。でもバーサーカーの維持にも使うから、今度は少し多めに……』 車内に積み込まれた機材から聞こえるのは、現在遠坂邸にいる少女の声だった。 敵マスターの声はかなり鮮明に聞こえる。技術の進歩を感慨深げに実感していたサーヴァントは、車に近づく気配を察知し、銃を手に取る。 召喚当初に所持していた狙撃銃ではなく、現代で用意したサブマシンガンである。 一定のリズムで叩かれる車のドアに、アサシンは銃口をそのままに、ただ口を開いた。 「バゼットか」 「ええ、戻りましたアサシン」 そのまま車内に入ってきた自分のマスターに、アサシンはようやく銃を下ろした。 「現在、遠坂凛は家の中だ。狙撃地点は幾らか確保しているが、学校があの状態になったのは痛いな」 「行動のパターンが読みにくくなりますからね。それでも、聖杯戦争である以上彼女が外に出ないことはあり得ない。仕留めるにはその時です」 ああ、とアサシンが首肯する。 「バーサーカーは燃料を食い荒らすアメリカ車のようなものだ。ガソリンタンクが空になれば自ずと停車する」 アサシンの中でバーサーカー陣営の攻略法は既に出来上がっているらしい。 敵の工房がある筈の遠坂邸の情報を得るために盗聴器という科学の産物を使う提案をしたのはアサシンだ。 魔術師らしく、科学との縁が薄いバゼットにとっては不安が残る提案だったが、それの有効性は目を見張る物がある。 魔術的な要塞は、英霊の気配遮断と魔力を欠片も有しない機械装置には無力だった。 遠坂を初めとする陣営の情報を断片的にでも手に入れることができるアドバンテージは大きい。 車内に設置した機械を操作しているアサシンを見ながらバゼットは召喚直後の彼の台詞を思い出していた。 『俺は弱い英霊だ。多分殴り合いならマスターの方に分がある。だが、負ける気は無い。協力してくれ』 アサシンは確かに弱い英雄だ。パラメーターの殆どがEランクという脆弱さは、この戦争に参加したサーヴァント中最弱だろう。 それでもバゼットはアサシンを恐ろしい英霊だと思う。彼は弱いが、それは決して弱点になり得ない。文明の利器を惜しげも無く使い、その力を利用し、更に発揮する。 自分の弱さを知っているという事は、自分の持つ機能と性能を理解しているということだ。 執行者として数多の魔術師を狩ってきたバゼットにとって、もし相手取るならアサシンのような輩がもっともやりにくい。反面、味方にできればこれほど頼もしい相手もいなかった。 バゼットはアサシンについて不満は何も無かった。ただ問題があるとすれば。 「ほら、各種機器のマニュアルだ。読んで覚えろ」 アサシンが手渡した分厚い紙の束に、バゼットは僅かに身じろぎした。 「こ、これら全てを覚えるのですか……」 はっきり言って、バゼットは細かい操作が苦手だ。当然機械に関しても同じ事が言える。 「アサシン。魔術師という物は機械の扱いが不慣れでして……」 「じゃあ、練習して苦手を克服すべきだろう。俺にしても機械の扱いは専門家というわけでは無いんだ。バゼットにもできるようになって貰わなければ困る」 一分の隙も無い正論に、バゼットはなすすべも無くマニュアルを受け取った。 「戦いは情報の有無で幾らでもひっくり返る。そのあともまだ勉強して貰うことはあるからな」 聖杯戦争が終わるまでにどれだけの学習をさせられるのか、想像したバゼットは溜息をついた。 夜の繁華街は、会社帰りのサラリーマンや水商売に関わる人間で賑わっていた。 その中で、変わった装丁の本を持つ少年が虚空に話しかける。 「ライダー、これで冬木の大体の場所は回った。何か質問はあるかよ?」 『ない。しいて言えば、儂の最終宝具が使える場所が少ないな。こうも建物が密集していては』 返ってきた言葉に、慎二は再び問いを口にした。 「そんなに強力な宝具なのか?」 『うむ。もっとも、それを一度使えばしばらくは大幅に弱体化するという欠点もある』 「そうか、対策を考えておかないとな」 間桐慎二に魔術回路は無く、よってサーヴァントに供給できる魔力も無い。 しかし、本人が保有する魔力炉心と宝具によって魔力は普通に戦う分には全く困ることは無い。 最終宝具も多少無理をすれば放つことができるというのが本人の弁だ。 「勝てる。勝てるぞ。ライダー、そして僕とお前の願いを叶えるんだ」 『勝てるのでは無い、勝つのだ。儂は負けぬ』 一種傲岸とも言える強気な答えに、慎二は召喚時の光景を思い出していた。 『関羽雲長、騎乗兵の位を得て顕現したり―――喜べ。貴様らの勝利よ』 蟲倉の蟲を全て吹き飛ばしそうな豪風と共に出現したサーヴァントは、不遜な態度で周囲を見回した。 その眼光が、肩で息をしている召喚した本人に向かう。 「お前が儂を呼んだのか?」 「待て!よ、呼んだのはそいつだけど、マスターは僕だ」 多少震え声で話す慎二に、ライダーは一瞥すると、口を開いた。 「よろしい。この戦いに参加するには、かりそめとは言えマスターは必要。お前をマスターと認めてやる」 思いっきり下に見られながらも、こうして間桐慎二の聖杯戦争はスタートした。 「そこでだ、お前の宝具は……」 その時、肩同士が触れ合う衝撃を感じる。 「何だ。テメエ?」 話に集中する内に、人にぶつかってしまったらしい。振り返ると、明らかにチンピラ然とした男が立っていた。 「何独り言ブツブツ言ってんだ。電波かアァ?」 慎二の態度が気にくわなかったのか、チンピラはますます突っかかってきた。 チッと舌打ちして、小声で背後のサーヴァントに声をかける。 「ライダー、お前の戦闘力を見るぞ。こいつを半殺しにしろ」 虚空からの声は、慎二にのみ小声で伝えた。 『嫌じゃ』 「ハ?」 サーヴァントの声色は先程までと少しも変わらず、ハッキリと拒絶した。 「何言ってるんだよ。ご主人様のピンチだぞ!?」 『鶏を捌くに牛刀は用いぬ。この程度の輩に力を奮うなどしたくない』 なおも言い募ろうとした慎二だったが、側頭部への火花が出るような衝撃に受身を取る暇も無く昏倒した。 「バーカ!気持ち悪いんだよ。間抜け!」 大笑するチンピラは、倒れた慎二を何度も踏みつけた。周囲の人間も巻き込まれることを恐れてか、手を出そうとはしない。チンピラはそのまま慎二の懐に手を入れ、財布を抜き取る。手際からして慣れているのだろう。財布から一万円札を全て抜き取ると、そのまま去って行った。 「何で助けないんだ!この大馬鹿野郎!!」 ようやく立ち上がった慎二はビルの間にある路地裏に入り込むと、思い切りライダーを怒鳴りつけた。 実体化したライダーは、涼しい顔で慎二の怒鳴り声を聞いている。慎二が怒鳴り疲れて肩で息をすると、口を開いた。 「馬鹿たれ、あの程度の輩を退けられぬようでは仮とは言え、儂のマスターたる資格など無い」 「な、なんだとお……」 顔を紅潮させる慎二は、その時手に持っている物に気がついた。 サーヴァントを隷従させる偽臣の書、これは無理な命令で無い限り、サーヴァントを御することができる物。 歪んだ笑みを浮かべて、慎二がそれを手に取ろうとしたとき、ライダーの低い声が響いた。 「それで使える命令はせいぜい一回。こんなくだらん事に使う気か?」 その言葉に、一気に頭が冷える。確かにそうだ。こんなことに使うべきでは無い。 だが、殴られた痛みと受けた屈辱は自身を苛む一方だ。 「畜生……」 その時、壁に立て掛けてある『ある物』に気がついた。 その男は、街の鼻つまみ者だった。 自分より弱い人間をいたぶって、自分が強いと錯覚する感覚を愛していた。 必然的に中学生の時から恐喝で金を稼ぎ、一時の遊興の代価に当てた。 文字通りの街のダニのような人間だが、かと言ってヤクザになろうとも思わず、このまま一生を人から金銭を脅して手に入れて中途半端に生活できると本気で思っていた。 先程の少年からくすねた戦利品を数えているとき、後頭部に痛撃が走るまでは。 余りの痛みに意識を手放しそうになるが、後ろを振り返ったときに顔面を靴のような物で蹴られて、意識は無理矢理繋ぎ止められた。 「よくもまあ、やってくれたね。まずはさっき僕からくすねた金を返して貰おうか」 首筋に突き出された鉄パイプを前に、その男は今まで自分が傷つけた人々がしてきたように、地面に這いつくばって、こくこくと頷いた。 「ようやった。やられればやりかえせばよいのだ」 相変わらず尊大な態度でライダーは慎二を(一応は)褒めた。 「やかましい!大体僕に何かあったらどうするつもりだってんだよ!」 「その時はその時よ。どのみちあの程度できなければ、お前は死ぬだけだ」 あっさりと自分が死ぬと断じたサーヴァントは、もう一度霊体化する。 『さて、屋敷に帰って鋭気を養うとするか。なあ、マスター』 「帰るのかよ」 『儂を呼んだ場所で休めば、儂の魔力も戻りやすい』 「……わかったよ。その代わり今後は僕の指示に従えよ」 『だが断る。悪手を打とうとすれば、当然儂は拒否するぞ』 「そこは、承諾するところだろうが!!」 傍目から見れば、慎二一人でギャーギャーと騒いでいるようにしか見えない主従は、そのまま夜の街を家路についた。 第三話まで書くと、やっぱり自分が長編書いてるんだと実感が湧いてきます。 何とか書き上げましたが、本音を言えばひむてんで出てくるようなネタギャグの数々を書きたいです。 以下、没小ネタ ~凛が三人娘に聖杯戦争の概要を説明したあと~ 「―――以上が聖杯戦争の概要よ」 誰もが黙っている中で、一人が口を開いた。 「あのさ、ちょっといいか?」 蒔寺楓がしきりにキャスターの方を向きながら、凛に尋ねた。 「何かしら。蒔寺さん」 「遠坂がさっき言ってた英霊だけどさ。いや、分かってるぞ。霊なんて全部プラズマで説明できる嘘っぱちだし、アタシは平気だし、大丈夫だし、だけど、本当に、本当に、本当にキャスターさんって……ゆ・う・れ・い??」 楓の縋るような問いかけに、キャスターはきょとんとしながら答えた。 「?ええ、そうよ。私は一度死んだことがあるもの」 ―――時が止まった。 「勝利への脱出!」 「蒔の字、人の家の障子を突き破るんじゃない!」 蒔寺楓、心霊耐性E(超ニガテ) 実際に書いてみたかったのですが、話の雰囲気上どうしても割愛せざるを得ませんでした。 今後はギャグも入れてみたいなあと思います。それでは皆様ご機嫌よう。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/808.html
「―――そう、穂群原学園だ。被害は甚大……そうだ。不発弾の爆発でそうなったということにしよう。では、そのプランに沿って頼む」 事後処理を行う教会のスタッフに電話で連絡をした後、神父である男は受話器を置いた。 そして、教会の入口に目を向ける。そこにはスーツ姿の女性が立っていた。 「良く来てくれた。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 「お気になさらずに、言峰綺礼」 聖堂教会の人間と、魔術協会の人間、決して歩み寄らない両組織の人間が邂逅した。 「―――前回の聖杯戦争は陰惨を極めた。殺人鬼がマスターとなり、本来の監督役であった私の父は死亡、そしてあの大火災、 秘密裏に行われるはずの戦争が世間にこうまで被害を与え、神秘の隠匿という大前提を崩壊させる寸前まで行われたことは、実に憂うべきことだ」 言峰は首を振り、悲観した風に締めくくった。 「君にはこの聖杯戦争で前回のように狼藉を働くマスターとサーヴァントを狩る事に協力してもらいたい」 「ええ、私もそのつもりで来ました」 言峰の言葉に、バゼットは快く応じた。 ―――バゼットは気づかない。言峰綺礼が彼女の令呪が刻まれている左手を見ていることを。 「私はアサシンを召喚しました。彼ならマスターの情報を集める事にも、危険な存在の排除にもうってつけでしょう」 「アサシンか、それは好都合なサーヴァントを召喚したものだ」 満足げに頷く言峰は―――決定的な一言を口にした。 「ああ、ところで『それ』のことだが」 「?」 バゼットの視線が、言峰が指差した先、祭壇の上の十字架に向けられる。 何の変哲も無いホーリーシンボルに、バゼットは首をかしげた。 その隙を、言峰綺礼が見逃すはずも無い。 一瞬で黒鍵の刃を顕現させると、女の左腕を穿ちにかかる。殺気に気がついた女が振り向いたときにはもう遅い。 バゼットの表情、驚愕と哀哭がない交ぜになったそれを見て、言峰綺礼は嗤った。 「ああ、そうだ。その表情が見たかった」 言峰の奇襲は完璧に近い。もし、この場にバゼットの味方である第三者がいたとしても、普通の人間では対応すらできないだろう。 ―――あくまで、普通の人間ならば。 ドアを金槌で叩くような音がした瞬間、鉛弾は直線の弾道を描き飛んでいく。 教会の扉を撃ち抜いた一発の火線は、即座に刃物を持つ腕に命中した。 防弾機能と防護の術式が編まれた僧衣は大した威力でも無い銃弾を通さなかったが、衝撃まで殺しきることはできず、黒鍵は甲高い音を立てて床に転がり、言峰はバゼットに体勢を立て直させる暇を与えた。 バゼットは、奇襲を仕掛けてきた本人を見やりながら、距離を取る。 「念のため、鍵穴から中を覗いておいて正解だったな」 銃撃した当人は素早く扉を開けて入り、ポツリと呟いて銃口を神父に向けた。 「―――ク。暗殺者の英霊相手に騙し討ちは分が悪かったか」 獣のような笑みを浮かべる神父にアサシンは無言で銃を撃つ。銃創が神父の額に穿たれ、仰臥して斃れた。 「……」 無言で立つバゼットの額には冷や汗が浮かんでいた。 それはアサシンを奪われそうになる程、自分が弱いことに気がついたからだ。 言峰がかつてと比べて更に研鑽したのか、そうでないのかは、バゼットに知るよしもない。しかし、これだけは言える。 言峰にはバゼットと戦う意思があり、自分には言峰と戦う意思が無かった。 だから、簡単に騙され、殺されかけた。アサシンがいなければ、自分は早々に脱落していた。 その事実に、屈辱と恐怖が涌き上がってくる。 「バゼット、退くぞ」 アサシンの言葉にようやくバゼットは我に返った。 正当防衛だったとはいえ、自分達は監督役を殺害したのだ。早々に立ち退かなければ厄介なことになる。 「まだ調べたいことはあるが、諦めろ。下手をすれば敵が増えかねない」 「……ええ、確かに」 アサシンの先導でバゼットも教会を出る。一度だけ振り向いて言峰の遺体を見やった。そしてすぐに踵を返すと、教会を出ていった。 誰もいなくなった教会で、しかし動くモノはあった。 言峰綺礼の遺体、その額の穴から湧き出るように吹き出す物体―――黒い汚泥は、ゆっくりと言峰綺礼の傷口を埋めていった。やがて完全に傷口が塞がった時、今まで死体だった『何か』が立ち上がった。 「突然の危機を想定し、常に警戒を怠らず、引き際も素晴らしい。良いサーヴァントを引き当てたな。バゼット・フラガ・マクレミッツ」 笑う。それは嘲笑か、それとも祝福の笑みか。立ち上がった死人は、澱んだ眼で背後の空間を見た。 「それだけに手に入れられなかったことは惜しい。が、『お前』から見ればどうだ。手こずる相手か」 返ってきた言葉を聞き、言峰は笑いを深めた。 それはおぞましい、全てを冒涜するような笑みだった。 衛宮邸の茶の間。普段は明るい声が響く茶の間で、しかし現在は緊張が支配していた。 黒衣のキャスターは掌を由紀香の頭にかざし、精神を集中させて何かを詠唱している。 それが終わり、琥珀色の双眸を開いたキャスターに、マスターである士郎が期待を込めて口を開いた。 「キャスター、何とかできそうか?」 「……残念だけど、無理ね。これをやったのは現代の魔術師じゃ無い。これは宝具によるものよ」 その言葉に沈黙が陰鬱な物に変わる。キャスターの眼前には犬の耳が生えた由紀香の頭があった。 学校での戦闘後、一行はこれからをどうするべきかで話をした。 ともかくも遠坂凛が説明をする事になり、その場所として衛宮士郎が自分の家である衛宮邸を提供した顛末だ。 遠坂凛の口から出てくる説明に、それを聞く者達は驚く以前に呆然としていた。 魔術。 サーヴァント。 聖杯戦争。 いずれもライトノベルやアニメのような話であり、そしてそれが現実である事は先程の光景で証明されている。おまけに、自分達はそれに無理矢理な形で関わらせられようとしていることを聞かされた。 「大体は分かったが……とにかくもこれをどうにかして貰えないだろうか」 鐘は自分の背中から生えている翼を手に取って引っ張った。 由紀香の耳は帽子を被れば何とかなるだろうが、鐘の翼や楓の手足は誤魔化しようが無い。これでは日常生活を送る事すら出来ないだろう。 遠坂凛と衛宮士郎は、キャスターに解呪を依頼した。 ―――だが、芳しくは無かった。 「分かっていることは、これをしているのは魔術では無く宝具。それも相当に霊格の高い宝具によるもの。本来の担い手ならともかく、私に手が出せるものじゃないわ」 「それなら、遠坂がやったみたいにこの令呪でキャスターをパワーアップしたらどうだ?それなら……」 士郎の縋るような言葉に、キャスターは首を横に振った。 「出力が足りないとかそういう話じゃないの……わかりやすく説明するわ。ねえ、貴女」 話を黙って聞いていた少女にキャスターは話しかける。 「は、はい。何ですか?」 由紀香の視線を真っ直ぐ覗き込むキャスターは、口を開いた。 「何か、おかしな気分はしないかしら。例えば、できるはずの無い事をできたとか、それとも、あるはずの無い記憶を持っているとか」 「あの、そう言えば、何か変なことが。私の名前は三枝由紀香って言うんですけど、他にも名前がある気がするんです。それから、そのもう一つの名前の持ち主のやったことも覚えているような気が……」 「そういえば、アタシも操られてた時に何か夢みたいなもの見てた気がするな」 思い出したように言う楓に、鐘も反応した。 「……お前もか?蒔の字。私も何か戦うような夢を見ていた気もするが」 「ああ、それそれ。伽和羅(かわら)身につけて、剣持って戦うんだよ。自分の事じゃない筈なのに、妙にリアルな夢でさ」 その言葉に、キャスターはふうと溜息をついた。 「……本人の精神と、外部からの精神、つまりはその宝具によるものが、融着している。下手に引き離したら本来の精神にも悪影響が出るかも知れない」 キャスターの分析に、士郎は歯を食いしばって呻いた。 「……そんなことを、三人はされたのかよ」 「今は冷静に解決策を考える時よ。士郎」 怒りを募らせる士郎を宥めるキャスターだが、その表情は固い。楓が慌ててキャスターに詰め寄る。 「ちょ、ちょいまち。じゃ、このままこの姿で生きていけってのか?」 キャスターは無言でおもむろに楓の腹部に手をかざし、口を開いた。 「少なくとも姿はどうにかなると思うけど。貴女達が持っている以上、ある程度は自分で運用できる筈だから」 「ほ、本当?う~ん。戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ……」 由紀香が手を合わせ、拝むように念じた。すると、犬耳が髪の中に吸い込まれるように引っ込み、見えなくなる。 「おお、戻ったぞ。由紀香!」 「えっ……本当!戻ってる!」 鐘の言葉に手鏡を覗き込んだ由紀香は、自分の頭上から犬耳が綺麗に消えていることに歓声を上げた。 「強く念じれば、元に戻るのか」 「よし!メ鐘、アタシらもやってみよーぜ!」 そのまま、二人して手を合わせて念じる。 「「戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ、戻れ」」 二人で目を固くつぶって、一心不乱に唱えている姿は危ない新興宗教のようでなかなか不気味だったが、効果はあったらしい。 楓の手足は人間のそれに戻り、鐘の背にあった翼もうっすらと消えていった。 「「戻ったー!!」」 「これで少なくとも、外見はどうにかなるという事が分かったわね」 冷静に呟くキャスターの隣に座る士郎は、暫くつぐんでいた口を開いた。 「キャスター、聖杯なら三人の身体を完全に戻すことができるのか?」 士郎の言葉に、今しがた喜び合っていた三人が視線を向けた。 「聖杯が言葉通りの物なら、ね」 事も無げに言うキャスターの言葉で、衛宮士郎は表情を決意に固めた。 「……なら俺が聖杯を手に入れて、三人の身体を元に戻す」 その言葉に、三人は驚愕し、由紀香が真っ先に口を開く。 「待って、衛宮君!聖杯戦争って危険なんでしょ?」 「承知の上だ」 「承知の上だって、お前……分かってんのかよ。バカスパナ!」 「いくらなんでも、無茶だ。考え直せ」 楓に続き、鐘も士郎を止めるが、士郎は首を横に振る。 「もう、俺は巻き込まれているんだ。キャスターのマスターとして。今更引き返す道なんて無い」 士郎は淡々と話を続ける。 「俺は聖杯なんていらない。キャスターが使う分と、三人が元に戻るために使う分さえあればそれでいい。」 「だが!校舎をあんな風にしてしまう連中が相手なんだぞ?」 「なら、尚更だ。サーヴァントに敵うのがサーヴァントだけなら、俺が聖杯を手に入れるしか無い。それしか氷室達の身体を元に戻す方法が無いのなら、それを選ぶのが当然だ」 士郎の言葉に、その場の全員が言葉を失った。 この少年は、知り合いとは言え他人のために戦うと、剣の一振りで鉄筋造りの校舎を焼くような怪物達の闘いに身を投じると言ったのだ。 三人のいずれもがなにか言おうとしてやめた。この少年が戦って、聖杯を手に入れてくれれば自分達は元の日常に帰れるという考えを誰もが抱き、 すぐにそれが少年を死地に追いやることである事に気がつき、そんな考えを抱いた自分が醜くて仕方が無かった。 悲壮な雰囲気が漂った空間は、一人の少女が立ち上がったことで、沈黙が終わる。 「じゃあ、私は帰るけど、衛宮君。話したいことがあるからちょっと来てくれない?」 優等生の皮を脱いだらしい遠坂凛は、こちらの方が素であろう態度で士郎を呼んだ。 「正直なところ、私も聖杯で叶えたい願いは無いのよ」 凛の言葉に、士郎は驚愕した。 「じゃあ、何だってこんな闘いに参加したんだよ。俺みたいに偶然召喚したわけじゃ無いんだろ?」 「まあ、それは置いといて。聖杯を三枝さん達のために使うって本当?」 真剣な顔で聞く凛に、士郎は少したじろぐも、はっきりと答えた。 「ああ、そうしようと思う」 「キャスターはそれでいいの?」 凛の言葉にもキャスターはいつもの感情の起伏に乏しい表情を変えなかった。 「士郎に従うわ」 「そう。それなら約束して。どちらが最後まで残って、聖杯を手にしても、三枝さん達のために使うと」 「本当か!?」 万能の願望機を、自分と同じく他者のために使う人間がいたことに、今度は士郎が驚いた。 「別に深い意味は無いわ。ただ冬木の管理者として、こんな風に一般人を好き勝手されて気に入らないだけ」 「えっ、遠坂ってそんなに偉い人だったのか?」 「衛宮君、どれだけこっち側のものを知らないのよ……」 士郎の無知に、凛は額に指を立てて首を振った。 「とにかく、三枝さん達のことはできるだけ他のマスターにもばれないようにしましょう。宝具を取り出せない以上、先手を打って彼女達を攻撃しようなんて連中がいないとも限らないわ」 「とりあえず、当面は犯人のサーヴァントとマスターの捜索だな。分かった。遠坂ありがとう」 「お礼はいいわ。いずれ戦う相手だもの……ああ、そうそう」 「なんだ?」 「……やっぱりやめといた方がいいわね。それじゃあ、衛宮君、キャスター。また戦う日までね」 そう言うと、遠坂凛は怪訝な顔をした士郎とキャスターを残して去って行った。 家路についた凛は、既に自宅である遠坂邸の正門前に立っていた。 「そりゃそうだ。万が一のことを考えれば、綺礼には連絡しない方がいいわね」 遠坂凛は独り言を呟きながら、先程自分の頭に浮かんだ考えを反芻する。 ―――教会による三人の保護。 一瞬浮かんだ考えは、すぐに否定された。教会は正義の味方では無い。巻き込まれた人間の記憶を消して日常に返すぐらいのことはするだろうが、それは神秘を秘匿するという仕事をしているにすぎない。 おまけに現在の監督役は魔術協会とも繋がっているあの兄弟子だ。 もし協会にでも知られたら、三人の身柄がどうなるかわかったものではない。 宝具を身に宿した一般人だ。最悪、保護という名の実験材料化なんてこともありうる。 衛宮士郎は、家に人を招くことを躊躇しないような殆ど一般人、注意を払っておけば問題は無いだろう。 キャスターにしても、その衛宮士郎に忠実らしい。多分、大丈夫だ。 「問題は、明確なルール違反を犯したサーヴァントとマスターか」 一般人を操って他の陣営を襲わせる。神秘の漏洩にも繋がりかねないそれは、冬木の管理者としても遠坂凛としても許せそうにない。 「これでますます負けられなくなったわね。バーサーカー」 「◆◆―――◆」 凛は霊体化している従者に話しかけた。聞こえてきたのは相変わらずの唸り声だが、同意しているらしい。 「じゃあ、帰りますか。明日からが大変よ」 決意を新たに凛は玄関から自室へと向かった。 それは一見したところでは何の変哲も無いワンボックスカーだった。 誰が知るだろうか。それを根城にしている二人の内の一人が、人間では無いことを。 『……宝石は、まだあるわね。でもバーサーカーの維持にも使うから、今度は少し多めに……』 車内に積み込まれた機材から聞こえるのは、現在遠坂邸にいる少女の声だった。 敵マスターの声はかなり鮮明に聞こえる。技術の進歩を感慨深げに実感していたサーヴァントは、車に近づく気配を察知し、銃を手に取る。 召喚当初に所持していた狙撃銃ではなく、現代で用意したサブマシンガンである。 一定のリズムで叩かれる車のドアに、アサシンは銃口をそのままに、ただ口を開いた。 「バゼットか」 「ええ、戻りましたアサシン」 そのまま車内に入ってきた自分のマスターに、アサシンはようやく銃を下ろした。 「現在、遠坂凛は家の中だ。狙撃地点は幾らか確保しているが、学校があの状態になったのは痛いな」 「行動のパターンが読みにくくなりますからね。それでも、聖杯戦争である以上彼女が外に出ないことはあり得ない。仕留めるにはその時です」 ああ、とアサシンが首肯する。 「バーサーカーは燃料を食い荒らすアメリカ車のようなものだ。ガソリンタンクが空になれば自ずと停車する」 アサシンの中でバーサーカー陣営の攻略法は既に出来上がっているらしい。 敵の工房がある筈の遠坂邸の情報を得るために盗聴器という科学の産物を使う提案をしたのはアサシンだ。 魔術師らしく、科学との縁が薄いバゼットにとっては不安が残る提案だったが、それの有効性は目を見張る物がある。 魔術的な要塞は、英霊の気配遮断と魔力を欠片も有しない機械装置には無力だった。 遠坂を初めとする陣営の情報を断片的にでも手に入れることができるアドバンテージは大きい。 車内に設置した機械を操作しているアサシンを見ながらバゼットは召喚直後の彼の台詞を思い出していた。 『俺は弱い英霊だ。多分殴り合いならマスターの方に分がある。だが、負ける気は無い。協力してくれ』 アサシンは確かに弱い英雄だ。パラメーターの殆どがEランクという脆弱さは、この戦争に参加したサーヴァント中最弱だろう。 それでもバゼットはアサシンを恐ろしい英霊だと思う。彼は弱いが、それは決して弱点になり得ない。文明の利器を惜しげも無く使い、その力を利用し、更に発揮する。 自分の弱さを知っているという事は、自分の持つ機能と性能を理解しているということだ。 執行者として数多の魔術師を狩ってきたバゼットにとって、もし相手取るならアサシンのような輩がもっともやりにくい。反面、味方にできればこれほど頼もしい相手もいなかった。 バゼットはアサシンについて不満は何も無かった。ただ問題があるとすれば。 「ほら、各種機器のマニュアルだ。読んで覚えろ」 アサシンが手渡した分厚い紙の束に、バゼットは僅かに身じろぎした。 「こ、これら全てを覚えるのですか……」 はっきり言って、バゼットは細かい操作が苦手だ。当然機械に関しても同じ事が言える。 「アサシン。魔術師という物は機械の扱いが不慣れでして……」 「じゃあ、練習して苦手を克服すべきだろう。俺にしても機械の扱いは専門家というわけでは無いんだ。バゼットにもできるようになって貰わなければ困る」 一分の隙も無い正論に、バゼットはなすすべも無くマニュアルを受け取った。 「戦いは情報の有無で幾らでもひっくり返る。そのあともまだ勉強して貰うことはあるからな」 聖杯戦争が終わるまでにどれだけの学習をさせられるのか、想像したバゼットは溜息をついた。 夜の繁華街は、会社帰りのサラリーマンや水商売に関わる人間で賑わっていた。 その中で、変わった装丁の本を持つ少年が虚空に話しかける。 「ライダー、これで冬木の大体の場所は回った。何か質問はあるかよ?」 『ない。しいて言えば、儂の最終宝具が使える場所が少ないな。こうも建物が密集していては』 返ってきた言葉に、慎二は再び問いを口にした。 「そんなに強力な宝具なのか?」 『うむ。もっとも、それを一度使えばしばらくは大幅に弱体化するという欠点もある』 「そうか、対策を考えておかないとな」 間桐慎二に魔術回路は無く、よってサーヴァントに供給できる魔力も無い。 しかし、本人が保有する魔力炉心と宝具によって魔力は普通に戦う分には全く困ることは無い。 最終宝具も多少無理をすれば放つことができるというのが本人の弁だ。 「勝てる。勝てるぞ。ライダー、そして僕とお前の願いを叶えるんだ」 『勝てるのでは無い、勝つのだ。儂は負けぬ』 一種傲岸とも言える強気な答えに、慎二は召喚時の光景を思い出していた。 『関羽雲長、騎乗兵の位を得て顕現したり―――喜べ。貴様らの勝利よ』 蟲倉の蟲を全て吹き飛ばしそうな豪風と共に出現したサーヴァントは、不遜な態度で周囲を見回した。 その眼光が、肩で息をしている召喚した本人に向かう。 「お前が儂を呼んだのか?」 「待て!よ、呼んだのはそいつだけど、マスターは僕だ」 多少震え声で話す慎二に、ライダーは一瞥すると、口を開いた。 「よろしい。この戦いに参加するには、かりそめとは言えマスターは必要。お前をマスターと認めてやる」 思いっきり下に見られながらも、こうして間桐慎二の聖杯戦争はスタートした。 「そこでだ、お前の宝具は……」 その時、肩同士が触れ合う衝撃を感じる。 「何だ。テメエ?」 話に集中する内に、人にぶつかってしまったらしい。振り返ると、明らかにチンピラ然とした男が立っていた。 「何独り言ブツブツ言ってんだ。電波かアァ?」 慎二の態度が気にくわなかったのか、チンピラはますます突っかかってきた。 チッと舌打ちして、小声で背後のサーヴァントに声をかける。 「ライダー、お前の戦闘力を見るぞ。こいつを半殺しにしろ」 虚空からの声は、慎二にのみ小声で伝えた。 『嫌じゃ』 「ハ?」 サーヴァントの声色は先程までと少しも変わらず、ハッキリと拒絶した。 「何言ってるんだよ。ご主人様のピンチだぞ!?」 『鶏を捌くに牛刀は用いぬ。この程度の輩に力を奮うなどしたくない』 なおも言い募ろうとした慎二だったが、側頭部への火花が出るような衝撃に受身を取る暇も無く昏倒した。 「バーカ!気持ち悪いんだよ。間抜け!」 大笑するチンピラは、倒れた慎二を何度も踏みつけた。周囲の人間も巻き込まれることを恐れてか、手を出そうとはしない。チンピラはそのまま慎二の懐に手を入れ、財布を抜き取る。手際からして慣れているのだろう。財布から一万円札を全て抜き取ると、そのまま去って行った。 「何で助けないんだ!この大馬鹿野郎!!」 ようやく立ち上がった慎二はビルの間にある路地裏に入り込むと、思い切りライダーを怒鳴りつけた。 実体化したライダーは、涼しい顔で慎二の怒鳴り声を聞いている。慎二が怒鳴り疲れて肩で息をすると、口を開いた。 「馬鹿たれ、あの程度の輩を退けられぬようでは仮とは言え、儂のマスターたる資格など無い」 「な、なんだとお……」 顔を紅潮させる慎二は、その時手に持っている物に気がついた。 サーヴァントを隷従させる偽臣の書、これは無理な命令で無い限り、サーヴァントを御することができる物。 歪んだ笑みを浮かべて、慎二がそれを手に取ろうとしたとき、ライダーの低い声が響いた。 「それで使える命令はせいぜい一回。こんなくだらん事に使う気か?」 その言葉に、一気に頭が冷える。確かにそうだ。こんなことに使うべきでは無い。 だが、殴られた痛みと受けた屈辱は自身を苛む一方だ。 「畜生……」 その時、壁に立て掛けてある『ある物』に気がついた。 その男は、街の鼻つまみ者だった。 自分より弱い人間をいたぶって、自分が強いと錯覚する感覚を愛していた。 必然的に中学生の時から恐喝で金を稼ぎ、一時の遊興の代価に当てた。 文字通りの街のダニのような人間だが、かと言ってヤクザになろうとも思わず、このまま一生を人から金銭を脅して手に入れて中途半端に生活できると本気で思っていた。 先程の少年からくすねた戦利品を数えているとき、後頭部に痛撃が走るまでは。 余りの痛みに意識を手放しそうになるが、後ろを振り返ったときに顔面を靴のような物で蹴られて、意識は無理矢理繋ぎ止められた。 「よくもまあ、やってくれたね。まずはさっき僕からくすねた金を返して貰おうか」 首筋に突き出された鉄パイプを前に、その男は今まで自分が傷つけた人々がしてきたように、地面に這いつくばって、こくこくと頷いた。 「ようやった。やられればやりかえせばよいのだ」 相変わらず尊大な態度でライダーは慎二を(一応は)褒めた。 「やかましい!大体僕に何かあったらどうするつもりだってんだよ!」 「その時はその時よ。どのみちあの程度できなければ、お前は死ぬだけだ」 あっさりと自分が死ぬと断じたサーヴァントは、もう一度霊体化する。 『さて、屋敷に帰って鋭気を養うとするか。なあ、マスター』 「帰るのかよ」 『儂を呼んだ場所で休めば、儂の魔力も戻りやすい』 「……わかったよ。その代わり今後は僕の指示に従えよ」 『だが断る。悪手を打とうとすれば、当然儂は拒否するぞ』 「そこは、承諾するところだろうが!!」 傍目から見れば、慎二一人でギャーギャーと騒いでいるようにしか見えない主従は、そのまま夜の街を家路についた。 第三話まで書くと、やっぱり自分が長編書いてるんだと実感が湧いてきます。 何とか書き上げましたが、本音を言えばひむてんで出てくるようなネタギャグの数々を書きたいです。 以下、没小ネタ ~凛が三人娘に聖杯戦争の概要を説明したあと~ 「―――以上が聖杯戦争の概要よ」 誰もが黙っている中で、一人が口を開いた。 「あのさ、ちょっといいか?」 蒔寺楓がしきりにキャスターの方を向きながら、凛に尋ねた。 「何かしら。蒔寺さん」 「遠坂がさっき言ってた英霊だけどさ。いや、分かってるぞ。霊なんて全部プラズマで説明できる嘘っぱちだし、アタシは平気だし、大丈夫だし、だけど、本当に、本当に、本当にキャスターさんって……ゆ・う・れ・い??」 楓の縋るような問いかけに、キャスターはきょとんとしながら答えた。 「?ええ、そうよ。私は一度死んだことがあるもの」 ―――時が止まった。 「勝利への脱出!」 「蒔の字、人の家の障子を突き破るんじゃない!」 蒔寺楓、心霊耐性E(超ニガテ) 実際に書いてみたかったのですが、話の雰囲気上どうしても割愛せざるを得ませんでした。 今後はギャグも入れてみたいなあと思います。それでは皆様ご機嫌よう。